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こんにちは。

十二月に入って一つ目の更新です。リハビリも兼ねてオリジナルの短編を一本。
一次創作は何年ぶりでしょうか・・・八年ぶりぐらい?かなり昔のメモから漁ってきました。
続編を書くかどうかは謎ですが、もし次があるとするならば、取りあえず今のところはブログとTwitter(ぷらいべったー)のみで更新していく予定です。
余談ですが、読んで下さったフォロワーさんから主人公のイラストを頂き、嬉しすぎて転げ回りました(笑)

このお話は深海亭という、海の底にある小さな村の「お食事処兼飲み屋さん」が舞台になっています。
基本的にお店の女主人である深海さん(魚人と人間のハーフなので足の他に魚のような尻尾がついています)と、双子の女性店員(いすみさん・みすみさん)、そして毎話変わるお客さんでストーリーが進んでいく単発型の物語です。
直接的な表現はありませんが、今回はお話の関係で百合注意です。

先月はお休みしておりましたが、今月から活動を再開させて頂こうと思います。お休み中にメッセージ・コメントを下さった皆様、本当にありがとうございました。拍手などお返事を返すことが出来なかったものもありますが、全て有り難く読ませて頂いております。
リクエストについては必ず全て書き上げる予定です。当初の予定より大幅に遅れる可能性もありますが、ご了承下さいませ。


↓それでは本編は追記に格納


退化する明日




その日は今まで見たことのない客が来た。
見たことのない客、といっても、たまに訪れる行商人や旅団の類ではない。男の老人が一人きり。年の頃は六十、いや七十には手が届くだろうか?温暖なこの辺りの気候に反して長いケープを纏っているところからすると、ここよりずっと北の方から訪れたのかもしれない。右足が悪いのか、杖をつきながらゆっくりとした歩みで店の中に入って来る。

「いらっしゃいませ」

いすみは厨房へ回っている妹の代わりに、老人を眺めの良い窓際の席へ案内しようと近寄った。西日が差し込んでいるので今は薄いカーテンを閉めているが、普段は日当たりの良い、店一番の特等席である。

「こちらのお席にどうぞ」
「いや、いいよ。カウンターでね・・・。それより、ここの主人はどこかな?」

老人はいすみの申し出をやんわりと断って、カウンターの中央へ腰かけた。杖を隣の椅子へ立てかけ、やはり足が悪いのかしきりに右膝をさすっている。

「主人っていうと・・・深海さんなら奥にいますけど、お知り合いの方ですか?」
「ああ、多分ね」

多分、とは妙な言い方である。かといって目の前の老人は別段怪しい者にも見えない。いすみは老人にメニューを渡すと、店の主人である深海を呼ぶためカウンターの裏側へ回り込んだ。

「深海さーん!」

厨房へは靴を履きかえなければ入れない。呼ぶだけでわざわざそんなことをするのも面倒だ、といすみは厨房の入り口から大きな声で深海を呼んだ。食器を洗っていたみすみが驚いた様子でこちらを振り返る。数秒遅れて、積まれた木箱の向こうから深海の顔が覗いた。

「はあい、」
「深海さん、お客さん来てますよ!多分お知り合いの方?らしいです」
「そう。じゃあ多分、お知り合いの方なんでしょうね」

深海はのんびりした様子で頷くと、立ち上がって靴を脱ぎ、いすみと共に店の方へ出た。

「えーっと、そちらのカウンターにいらっしゃる方なんですけど・・・」
「ああ、やっぱりそうだった!!久しぶりだねえ」

カウンター越しに現れた深海を見るやいなや、いすみの言葉を遮るように老人が声を上げた。先程と同じ人物とは思えない程輝いた顔で、足が悪いのも忘れたように椅子から腰を浮かせている。深海は一瞬驚いたように目を開いたが、それもすぐいつものような微睡んだ眼差しに変わった。

「私の間違いじゃなければだけど・・・どうも、お久しぶり」
「もう何十年ぶりかな・・・。君が店をやっていると聞いてね。年で動けなくなる前にと思って、無理を言ってここへ寄る船に乗せて貰ったんだ」
「それにしても随分突然ね。わざわざ故郷からここまで?」
「いや、軍が解体されてから一度は郷に帰ったんだが・・・北の大きい街へ出稼ぎに行ってね、あとはずっとそこに」
「そう・・・北の方は一年中寒いって聞いたけど、本当かしら。ここは反対にずっと温かいからちょっと想像出来ないわね」
「慣れればそれほど苦労はないよ。一年中厚着してるだけさ」

話しながら深海はカウンターの下からダーク・ラムのビンを取り出した。それを見たいすみは、まだこの老人から注文を聞いていないことを思い出し、慌ててポケットにあるメモとペンを探る。

「あっ、あの!ご注文は、」
「折角だから、今日のメニューは主人に任せることにしよう。飲み物と・・・何かデザートを」
「あらあら、随分大雑把な注文をするのね。何が出て来ても知りませんよ」
「君が私のことを忘れていなければ大丈夫さ」
「どうかしら?」

どうやら老人と深海は本当に深い知り合いのようだ。いすみは脇に置かれたメニューを下げながら、老人と深海を何度も見比べる。深海が誰かとここまで親しげに話しているのは、いまだかつて見たことがない。随分古い付き合いなのだろうが、それにしたって二人はあまりにも年齢が離れすぎているように見えた。老人は「何十年ぶり」と言っていたような気がするが、その頃深海はまだ子供ではないのだろうか?

「いすみさん、」
「えっ、あっ・・・はい!」
「みすみさんの食器洗いももうすぐ終わるだろうし、お客さんが来るまではあなたもゆっくりしててちょうだい」

どうせ七時になるまでは誰も来ないでしょうから、と言って深海は笑った。それでもいすみは何となくこの二人を見ていたくて、昼に書きかけた帳簿を片手に、カウンターの隅へ腰を下ろす。

「繁盛してないのかい」
「この辺りは見ての通り人が少ないでしょう。それにあんまりお客さんが多くても嫌なのよねえ。祭りの日の夜なんかは人でいっぱいになるけど、やっぱり普段は静かな方が良いわ。儲からなくたって食べていけるだけで十分」

言いながら深海は沸かした湯をグラスへ注ぎ、そこへ先程取り出したダーク・ラムのビンを傾けた。ラム酒の匂いが湯気に混ざってほんのりと立ち上る。その甘い香りは、端の方に居るいすみの所まで柔らかく漂ってきた。

「だろうね。君は昔から人ごみと騒がしいところが苦手だった」
「元々持ってる好みって、そう変わらないものなのかしら」
「さあ、どうだろう」

老人は穏やかに笑って膝を撫でている。深海はグラスへ角砂糖を一つ落とすと、シナモンのスティックで軽く掻き混ぜた。そこへ更にバターをひとかけら浮かべ、カウンター越しに老人へ差し出す。

「どうぞ」
「ホット・バタード・ラム」
「間違いだった?」
「いや、大当たりさ。やっぱり覚えていてくれたんだね」

老人は嬉しそうにシナモンでグラスを掻き回すと、大事そうに一口啜って息を吐いた。

「君は変わらないね。あの日から少しも・・・。五十年も経って、私はもうこんな老人になってしまった」
「あら、そんなことないわ。私も時間の分だけ、自分が古びたのが分かるの」
「そうかい?見た目はちっとも変わらないのに」
「私、ある日ね、自分が明日に期待しなくなってることに気付いたの。明日より昨日の方が好きなのよ」

昔は夜になったら、早く夜が明けて次の日になれば良いのにって思ったものだけど。
老人は黙ってグラスを傾けながら、深海の言葉を聞いている。深海は今度は足元の木箱から林檎を取り出した。

「不思議だと思わない?明日が来ることがどんどん嫌になるの。いつの間にか信じられない程、自分があの日から離れていることに気付いて・・・。永遠にあの時間から動けない人たちが居るのに、私だけ年を取るなんて、信じたくないでしょう」
「それで君は年を取るのをやめてしまったのかい?」
「まさか。私、多分とっても長生きなの。それだけよ。魚人はすごく長生きでしょう?私のお母様も、生きてたらきっとものすごく長生きだったはずよ」

深海はリンゴの芯をくり抜くと、その上にパラパラとひとつまみの砂糖を掛けた。それを奥の厨房へ持って行き、直ぐにまたカウンターの方へ戻って来る。

「そういう訳でね、私これからどんどん今日より昨日、昨日より一昨日が好きになっていくんだと思うわ。そしてとうとう『あの日』に辿り着いて、それさえずっと飛び越して・・・最後は自分が生まれた日のことを思うようになって、それでおしまい」
「おしまいなんて、随分寂しいことを言うね」
「でもそしたらやっとこの世を一周して、止まってしまった人たちに追いつけるのよ」

深海は林檎を切ったナイフを布巾で拭って、元通りに仕舞った。

「それでも寂しいよ」

老人はぽつりと言って、半分ほどまで減ったグラスをカウンターに置いた。深海はそれには何も答えず、また厨房の方へ入ってしまう。奥で調理をしているのか、暫くすると何か物音が聞こえてきた。

「あの、ちょっと」
「ああ、何かな?」
「こんなこと聞いて失礼だとは思うんですけど・・・深海さんとは、どういったお知り合いの方なんですか?」

深海がまだ戻って来ないことを確認して、いすみは遂に老人へ声を掛けた。先程の話からずっと気になっていたのだ。深海について、いすみは知らないことがたくさんある。これはどうやら自分だけではなく、妹は勿論のこと、村の人々も同じらしかった。もともと深海はここの出身ではないというのだ。だからこそ、深海の過去を知っているらしい、この老人の話には俄然興味が湧いた。

「彼女とは戦争時代の同期なんだよ。戦争が始まって暫くしてから、同じ隊に配属されたんだ」
「戦争時代・・・って、何年前の話ですか!?」
「海底戦争の頃だから、かれこれ五十年以上前の話になるね。私はもうこんな爺さんだけど、彼女はあの時から少しも年を取っていない」
「えっ、えっと!じゃあ深海さんって実はものすごい年ってことに・・・」
「ははは、そうなるね。少なくとも、私と同じ位はいってるんじゃないかな」

いすみはぽかんと口を開けて、目の前で笑う老人を眺める。深海は人間と魚人の間に生まれたのだから、寿命が普通の人より長いというのは分かる。それでも、五十年も経っていながら見た目が少しも変わらないなんて・・・。

「じゃあさっき深海さんが言ってた『あの日』っていうのは、やっぱり戦争が終わった日のことなんでしょうか・・・」
「いや・・・おそらく違うよ。彼女の想い人―――あの時、一番大事だった人が亡くなった日さ。戦争が終わる少し前だった。小隊を束ねていた上官でね。私と彼女の隊も、そのうちの一つだった」
「深海さんの、想い人・・・」

いすみは最早驚くことも諦めて嘆息した。深海にそんな過去があったなどとは、思いもよらない話である。というよりも、自分が知っている深海の姿とあまりにもかけ離れていて、この老人の話がにわかには信じられなかった。戦争に行く深海など少しも想像がつかない。

「その人ってどんな人だったんですか?」
「そうだなあ、男にも負けないぐらい、なかなか気の強い人だったよ。女の上官はあの人だけだった。やっぱり腕力は他の上官に敵わなかっただろうけど、誰より人気があったし、威勢も良かった。お酒が本当に好きな人でね・・・戦争が終わって北の街に行った時は、強いお酒ばかり売っているのを見て、あの人が生きていたら喜んで飲んだだろうと思ったよ」

こんなの水と一緒だって、良く笑われたものさ。
老人は微笑んで自分のグラスを持ち上げてみせる。

「上官って・・・お、女の人・・・!?」

いすみはますます混乱して記帳用のペンを放り出した。

「ああ。でも当時は珍しくなかった。女にも男にも好かれていた上官だったからね。今の彼女しか知らない君からしたら、意外かな?」
「えーと、はい、まあ・・・少し・・・」
「彼女は今でもずっと、あの人のことだけを想っているんだろうね。今日来てみて、それが良く分かったよ。君が渡してくれたメニューにも、あの人の好きだったものが沢山あった。このお店は、もしかしたら彼女なりの精一杯の弔いなのかもしれないね・・・」

老人はしんみりと呟いて、ケープの下から葉巻を取り出した。葉巻はこのあたりではあまり手に入らない貴重品だが、北の方では庶民も気軽に吸うと聞いたことがある。いすみは昇ってゆく煙をぼんやりと眺めながら、永遠に見ることのないその上官と、それを見つめる深海の姿を思い描いた。

「折角遥々来て下さったんだもの、そろそろお店の子よりも私のお相手をして頂こうかしら?」
「ひわっ!」

突然カウンターの向こうから聞こえた言葉に、いすみは驚いて肩を跳ねさせた。
深海はそんないすみの様子を気にする素振りもなく、カウンターに活けてあるハーブのブーケからミントを摘んで、厨房から持って来たのだろう白い皿に添える。皿の上にはしっかりと焼き込まれて湯気を立てるリンゴが乗っていた。くり抜いた芯の部分にはアイスクリームがたっぷりと詰められ、その上から薄いパイが帽子のように乗せられている。

「はい、どうぞ。焼きリンゴのアイスクリーム詰めよ」
「これも大当たりだ。メニューにはなかったのに、わざわざ作ってくれたんだね。嬉しいよ」
「あら、書いてなかった?今度加えておくわ」

深海はメニューを取り上げると、確認するようにパラパラと捲った。老人はフォークとナイフで器用にリンゴを切り開くと、温かい果肉の上にアイスクリームを乗せて口に運ぶ。

「うん、おいしいね・・・やっぱり甘い物が一番だ」
「昔から甘党だったものね。あなただって、中身は変わってないんじゃないかしら」
「そうかもしれないね。結局、今日まで酒もあまり飲めないままだったよ」

それから老人と深海は暫く無言でカウンター越しに向かい合っていたが、やがて老人は皿の物を食べる手を休めて顔を上げた。

「そういえば、どうしてここで店を始めたんだい。君の故郷はここじゃあないだろう」
「故郷に帰ったってしょうがないもの。他の人みたいに家もないし、家族も居ない・・・それより新しい場所で新しいことをする方がよっぽど簡単だったわ」
「・・・そうか」

老人は曖昧な笑みを浮かべて頷くと、また皿に目を戻し、今度は食べ終わるまで一言も口をきかなかった。

「ごちそうさま」

最後の一口まで飲み込むと、老人は満足したように息を吐いた。フォークを置くと、腕時計を確認してやれやれと首を振る。

「まだ話し足りないけれど、もう行かないと。そろそろ船が出る時間だ」
「そんなにすぐ出てしまう船なの?せっかちなのねえ。小さな村だけど、半日も寄らないなんて」
「観光船じゃなくて物資の輸送船なんだ。大分無理を言って、やっと乗せてもらったよ」

遅刻したらそれこそ大目玉を食らうだろうなあ、と言って老人は笑うと、ケープの下から銀貨を数枚取り出してカウンターに置いた。

「やっぱり来て良かったよ。色々昔のことも整理がついた。これで何も思い残す事なく、最後の日を待てる」
「それは良かったわ。・・・またいつか、会えるかしら」
「ああ・・・」

きっとね、と言って老人は杖を手に立ち上がった。来た時と同じように足を引きずって、店の入り口まで歩いていく。

「それじゃあ、また」
「ええ」

ドアを開けると、もう既に日は落ちて闇が迫っていた。老人はいすみにも軽く頭を下げると、そのまま夜に紛れるように外の世界へ消えて行く。

「ありがとうございました―――」

ドアが閉じるのを見届けてからいすみが振り返ると、深海は既に厨房へ戻った後だった。食器とグラスも深海が下げたのか、カウンターには何一つ残っていない。誰も居ない店内には、ただラム酒とリンゴの甘い匂いが微かに漂っていた。

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テーマ:自作小説(ファンタジー)
ジャンル:小説・文学

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海野ヒレ

Author:海野ヒレ
生き物大好き:海野ヒレ

pixiv: http://pixiv.me/umino-hire

twitter: https://twitter.com/umino_hire

身分:腐海の底で汚泥を啜る大学生。これでも医学生よ!

誕生日:8/4 吉田松陰先生と一緒(旧暦)

血液型:AB型

好きなゲーム:一生不動の一位はサガフロンティア2。異論は認める。

好きな漫画:ほんと色々。オリジナルBL、擬人化、アンソロも読みますモグモグおいしいおかわり!百合も逝ける。でも大まかに言うとギャグは大体好きみたいよ。

属性:自然発生型腐女子。小説メイン、イラスト少々にて活動中。拍手、コメントを貰うと喜びにくるいもだえるのだ。

特技:マイナーなジャンル・キャラ・CPばかりに熱烈な愛を送る。時々切ない。

好きなものごっちゃで詳しく:銀魂、サガフロ2、ダンガンロンパ、ギャグマンガ日和、+チック姉さん、ジョジョの奇妙な冒険(3部)、クロノクロス、ジルオール、ドリフターズ、モノノ怪、さらいや五葉、魔法少女まどか☆マギカ、モンハン、討鬼伝、アサシンクリード、フロンティアゲート、牧場物語、聖剣伝説LoM、FFXなど

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