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  • 愛は多い方が良い(吉良×ディアボロ 荒木荘 妊娠)

    category:JOJO二次創作小説

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こんにちは。

今回は吉良ボスのリクエスト短編になります。荒木荘に住んでるボスと吉良さんのお話。ボスが男の身体のまま妊娠してたりとか・・・。吉良さんが他の住人(主にカーズ様)とグルになって色々やってます。嘔吐描写(つわり)ありますので、苦手な方はご注意下さい。荒木荘は六畳一間設定です。Pixivさんの方には前編後編と分けて上げてあります。

しぐれ様、リクエストありがとうございました!
リクエスト内容は『吉良ボスでボスが妊娠する話』でした。男体のまま妊娠させてみました・・・。

なお、順番がリクエスト受け付け順と前後しております。ご容赦ください・・・。アヴポルは次回!
リクエスト受け付けは終了しました。たくさんのリクエストありがとうございました!出来るだけ早く全て書き上げたいと思います。

↓それでは本編は追記に格納!

愛は多い方が良い



興味本位で吉良の体重計へ乗ったのは、一ヶ月ほど前の話だっただろうか。
吉良に就寝を促され、ディアボロは寝る前にシャワーを浴びようと風呂場へ向かった。脱衣所で服を脱ぎ、汚れ物を適当に洗濯かごへ放り込む。全裸になっていざ風呂に入ろうというところで、ふと脱衣所の隅にある体重計が目に入った。
この体重計は吉良が自身の健康のために購入したもので、その他の住人が使っているのは今まで見たことが無い。ディアボロとて死に続ける生活の中で体重を気にする余裕などあるはずもなく、他の同居人同様、一度もこの上に乗ったことはなかった。

「・・・ふむ」

ちょっとした戯れだ。ディアボロは意味もなく周囲の気配を窺いながら、そっと体重計へ足を乗せた。別に吉良に見つかったからと言って怒られる訳ではないだろうが、素っ裸で体重計に乗っている姿は自分で想像してみても少々間抜けな絵面だ。出来れば誰にも見られたくない。無言で足型の絵に合わせて両足を揃え、表示されたデジタルの数字が落ち着くのを待つ。

「・・・まあ、こんなものか」

普通だな、と呟いてディアボロは体重計から下りた。同じ身長で比較すればそこらの成人男性よりは重いかもしれないが、そもそも鍛えていた分筋肉の量が違うのだ。この程度が妥当だろう。
そういえば、とディアボロは首を捻る。吉良の体重はどれぐらいだろうか?ドッピオを除くと、吉良はここの住人の誰よりも小柄だ。吉良自身の要望で上に乗ることもあるが、自分より重い男に乗られて苦しくないのだろうか・・・。唐突に思考が夜の方向へずれ始めたことに気づき、ディアボロは慌ててその想像を追い払う。体重を量ったぐらいで一体何を考えているんだ、俺は・・・!ディアボロは妙に気恥ずかしくなって舌打ちをすると、乱暴な仕草で浴室のドアを押し開けた。自己嫌悪のあまり軽い頭痛すら感じる。
―――そんなディアボロも、温かいシャワーを浴びて風呂を出る頃には、もう体重計のことなどすっかりと忘れてしまっていたのだった。

「ディアボロ、君ちょっと太ったんじゃないかい?」

ある日の夕飯後、狭い居間で並んでテレビを見ているとCMの合間に突然吉良がそんなことを言い出した。

「少し肉付きが良くなったというか・・・丸くなったね」
「・・・そうか?」

元々太っていた訳でもないので多少肉が付いたぐらいでは問題ないだろうが、それでも自分の身体のこととなると気になってしまう。しばらく身体を眺め回してみてから、ディアボロはあることに思い当たって首を横に振った。

「いや、そんなはずはない。レクイエムのことはお前にも話しただろう」
「死ぬとレクイエムを受けた当時の身体に戻るって話かい?」
「そうだ。俺は今も一日に数回は死んでいるんだぞ。太る訳がない」
「なるほど・・・」

そうかもしれないね。
吉良は妙に含みのある笑みを浮かべて頷く。

「おい、ディアボロ!『すかいぷ』とやらにメッセージが来ているぞ。どうするんだ?」
「あ?ああ・・・今行く」

ディアボロは吉良の言葉に何か引っ掛かるものを感じたが、パソコンを弄っていたDIOのせいで聞き返すタイミングを失ってしまった。
そうこうしている内に、また就寝の時間がやって来る。就寝時間になってから風呂へ入るのはやめろと吉良に小言を言われながらも、ディアボロはシャワーを浴びるため今夜も風呂場へ足を運んだ。

「太った・・・のか?」

服を脱いだディアボロは先程の吉良の言葉を思い出し、まじまじと自分の身体を見下ろした。有り得ない話なのだが、言われてみればそんな気がしないでもない。腹回りや二の腕の肉を触ってみると、確かに摘まめる部分の体積が少々増しているような・・・。
ディアボロは脱衣場の隅にある体重計を振り返る。客観的に判断できる一番の方法といえばやはりこれだろう。人間はいつだって数字に弱い生き物だ。ディアボロは慎重に体重計へ足を乗せ、振れる数字をじっと見つめた。

「なッ・・・!」

どういうことだ!?
思わず大声を上げそうになったディアボロは、慌てて口を押えて足元を睨みつけた。確実に三キロは増えている。三キロといえば、流石に一日で増えるような重量ではないだろう。一番最後に死んだのは今日の夕方頃だろうか。そこから今までの間にどれだけ水をがぶ飲みしたって三リットルも飲めるはずがないし、夕飯だっていつも通りの量しか食べていない。ディアボロは不安げに自分の身体を眺め回した。
繰り返される死とは無関係に、自分の身体が生物として連続した時間を経ることに成功している・・・すなわちレクイエムの拘束力が弱まってきている可能性もある。しかし現実的に考えて、レクイエムからの解放を期待するのは早計だろう。どちらかと言えば、これは新しい死へ繋がる何かだと考える方が自然だ。人間は肥満で死ぬという事があるのだろうか?いや、この場合は肥満に伴って何か病気を患うか、或いはもっと別の方法で・・・。
しばらくの間色々な考えが頭の中を巡ったものの、今の段階で分かることは殆どない。―――結局のところ、なるようにしかならないのか。延々と続く死の中で、自分はすっかり諦め癖が付いてしまったらしい。ディアボロは溜息を吐いて浴室へ入ると、違和感を振り切るように頭から熱い湯を被った。

翌朝、吉良に起こされて朝食の席についたディアボロは自分の目を疑った。寝起きで霞む目をぱちぱちと瞬かせ、ちゃぶ台に並んだ他の住人の食事と自身の朝食を何度も見比べる。

「どうしたんだい?」
「いや・・・」
「何も無いなら、早く食べてしまってくれ。仕事へ行く前に洗い物を片づけたいんだ」

この食事を作った当人である吉良はいつも通りの様子で朝食を口に運んでいる。味噌汁、焼魚、漬物、白米。いつもの朝食だ。ディアボロは自分の前に置かれた朝食をまじまじと見下ろす。どうした訳かどれも少しずつ量が少ない代わりに、他の住人よりも品数が多い。吉良達の食事に加えて冷奴、ほうれん草のお浸し、だし巻き卵が並び、いちごのデザートまで付いている。この好待遇はどう見てもディアボロだけだというのに、他の住人達は誰一人としてそこに触れようとしなかった。・・・正直、気味が悪くて喜ぶどころではない。

「き、吉良・・・俺は何かしたのか?」
「何だって?」
「いや、俺の食事だけ違うようだが・・・」
「ああ・・・それかい」

吉良も他の住人も相変わらず平然としている。自分だけが動揺している状況に、ディアボロはすっかり混乱していた。

「君が痩せるのを手伝ってあげようと思ってね。ダイエットで食事の見直しをするのは大事なことだろう?」
「待て、いつ俺が太ったと言った?それはお前が勝手にそう思っているだけで、」
「君、体重計に乗っただろう」

驚いたディアボロは思わず箸を取り落しかける。その様子を見て確信したのか、吉良はやっぱりねと訳知り顔で頷いた。

「あの体重計は測定者の登録が出来るんだよ。私はナンバーの1で登録してあるんだが・・・登録外で記録が2つ残っていたから、もしかしてと思ってね」

吉良は涼しい顔でコップに茶を注ぎ足す。ディアボロは箸を握りしめたまま、呆然と吉良の顔を見つめた。

「いくら君のことを好きだと言っても、やっぱり太って欲しくはないんだ。健康に悪いし、見た目にも影響する・・・」

吉良は茶を飲み干すと、食器を重ねて立ち上がった。

「君にとっても悪い話じゃないだろう?とにかく、早く食べてしまわないと自分で食器を洗ってもらうことになるよ」
「お、おい・・・!」

ディアボロが止めるのも無視して、吉良はさっさと部屋を出ると台所の方へ行ってしまう。くそっ・・・一体何なんだ!ディアボロは一人悪態を吐きながらも大急ぎで目の前の食事を掻き込んだ。

それから一ヶ月後、ディアボロは更に恐ろしい事態に見舞われた。
その日はどうも食欲が無かったのだが、吉良の冷たい視線に促されてディアボロは渋々朝食の席についた。半ば無理矢理押し付けられて箸を持ったものの、いっこうに食事は進まない。

「せめて味噌汁だけでも飲んだらどうだい」

吉良の言葉にディアボロはふるふると首を振った。味噌汁どころか、炊きたての白米の匂いを嗅いだだけで胃の奥から酸っぱいものがせり上がってくる。さっき無理矢理一口だけ押し込んだ豆腐がもう逆流してきそうだ。ディアボロは口元を押さえて箸を置いた。よろめきながら立ち上がろうとすると、見かねた吉良が声を掛けて来る。

「どこへ行くんだい?」
「もういらない・・・」
「いらないって、全然食べてないじゃないか」
「気分が悪い」

見て分からないのかと思ったが、そもそもこの男にそういう気遣いを望むこと自体が間違いなのかもしれない。ディアボロは溜息を吐くと、とにかくこの匂いから逃れようと腰を上げる。

「だめだよ、ほら」

何を思ったのか、吉良はディアボロの片腕を掴んでちゃぶ台へ引き戻すと、毟った焼き魚の身を箸で摘まんで差し出してきた。生臭い魚の匂いと焦げた皮の香ばしい香りが絶妙に混ざり合っている。鼻先に突き付けられたその匂いを吸いこんだ瞬間、ディアボロはぎゅうと胃の辺りが絞られるのを感じた。・・・限界だ。

「はっ・・・離せ!」

ディアボロは吉良の腕を振りほどくと、足を縺れさせながら一目散に手洗いへ駆け込んだ。ドアをこじ開け、屈み込む前に便器へ向かって思い切り嘔吐する。二、三回続けて嘔吐いたところでディアボロはその場にへたり込んだ。震える腕を後ろへ伸ばし、手探りで半開きになっていた扉を閉めると、また便器へ顔を突っ込んで胃の中の物を吐き出す。

「え゛っ・・・ぅく、げほっ・・・」

ろくに食べなかったので出てくるのは殆ど胃液だ。おかげで喉が灼けるように痛む。ディアボロは汗だくになって揺れる水面を覗き込み、痙攣する胃を少しでも宥めようと腹の上をさすった。

「はぁっ・・・はあ・・・・・・」

ここへ籠もり始めてから、二十分は過ぎただろうか。落ち着くまでかなりの時間を要したものの、ディアボロの吐き気はなんとかこの場を離れることが出来る程度までおさまった。とはいえ、まだ胸のむかつきはかなり残っている。ディアボロは暗澹たる気分で水を流し、ふらふらと立ち上がって外へ出た。洗面台で口を漱ぎ、重い足取りで部屋に向かう。

「・・・何だ?」

途中、ディアボロは妙な光景に出くわして足を止めた。今から出勤する様子の吉良とカーズが何やら玄関で話をしている。それだけなら別段珍しくも無いのだが、二人ともいつになく真剣な顔をしているのが気になった。何故かひそひそと小声でやり取りをしているので、ここからだとその内容までは分からない。かといって、迂闊に近づくと面倒なことに巻き込まれる可能性もある。離れたところから様子を窺っていると吉良はディアボロに気づいたらしく、カーズとの話を中断してこちらへ顔を向けた。

「ああ、ディアボロ。君、もう大丈夫なのかい?」
「いや・・・まだあまり・・・」
「そうか。私はこれから仕事に行くけど、ちゃんと横になって休んでいるんだよ」
「あ?ああ・・・」

正直なところ朝食の席での態度を叱られるのではないかと思っていたが、別段吉良がそのことについて怒っている様子は無い。むしろ、いつもより機嫌は良い様に見えた。

「カーズ、この話はまた今度にしよう。会社に遅刻しそうだ」
「それは構わんが、早い方がいいぞ」
「分かってるよ。・・・それじゃあまた夜に」

何の話だ・・・?ディアボロは内心訝しみながらも黙って仕事へ行く恋人を見送る。吉良は腕の時計を確認すると、急ぎ足で家を出て行ってしまった。

「おい、ディアボロ」
「・・・何だ」

用もなくなって部屋へ戻ろうと襖に手を掛けたところで、ディアボロはカーズに呼び止められた。何事かと振り返ると、カーズはディアボロに部屋へ入るよう顎で促してくる。中で話をしようということだろうか。ディアボロが襖を開けると、畳の上には布団が一式用意されていた。誰が準備したのかは分からないが、少なくとも朝食の時には無かったはずである。カーズは固まっているディアボロの横をすり抜けて布団の隣に腰を下ろすと、手短に指示を出した。

「寝ろ」

いちいち従うのも腹立たしいが、早く横になりたかったディアボロとしては好都合だ。ディアボロは無言で言われた通り布団に潜り込む。

「それで、どういった具合なんだ?」
「・・・は?」
「症状を言え」
「ふん・・・何なんだ急に。医者の真似事か?」

ディアボロは憮然として鼻を鳴らした。しかしカーズは顔色一つ変えず、ディアボロの掛け布団を剥いで部屋着のTシャツを捲り上げ始める。これには流石のディアボロも慌てた。

「お、おいっ・・・何をする!」
「貴様が言わないのならば、自ら確かめるまでよ」
「言う!言えばいいんだろう!さ、触るなッ・・・!」

勝手に腹の中をまさぐられては堪らない。ディアボロが身を捩ってカーズの腕から逃れようとすると、意外にもカーズはすぐ引き下がった。それでも暴れた代償は大きく、おさまっていた吐き気がぶり返してくる。ディアボロはくぐもった呻き声を上げて、ぐったりと布団の上へ横たわった。

「・・・吐きそうだ」
「ふむ」

カーズは厭に真面目な顔でディアボロの身体をじろじろと眺めまわしている。特に腹が気になるのか、捲れた服の下をしきりに気にしていた。

「朝からずっとこの調子か?」
「まあな。食事の匂いを嗅いだだけで、吐きそうになる・・・」
「なるほど・・・他に何か変わったことは」
「体重が少し増えたぐらいだな。この調子だと、ろくに食えないおかげですぐ元に戻りそうだが」

・・・何を真面目に答えているんだ、俺は。
途中で馬鹿馬鹿しくなって無視しようかとも思ったが、カーズがやけに真剣に尋ねてくるものだからこちらも思わず正直に答えてしまう。その後もしばらくカーズの問診は続き、結局ディアボロは腹の中まで触診される羽目になった。診察を終える頃には、このまま死んでしまうのではないかと思った程だ。

「・・・で、何か分かったのか」
「ふーむ・・・あと二週間程はこのままだろうな。見たところ病気ではない。これが原因で死ぬこともなかろう」

何故そんなことが分かるんだ・・・。ディアボロは内側から弄り回されたせいで今だ違和感の残る腹をさする。胃がむかつくと訴えたはずなのに、カーズは執拗にディアボロの下腹を探っていた。それこそ陰部すれすれのところを無駄に掻き回されて、プライバシーも何もあったものではない。

「しばらくは吐き気がするだろうが、おさまるまで無理に食わなくても構わん。最悪水分補給だけしていろ」

それだけ言い捨てると、カーズはディアボロの返事も聞かず部屋を出て行ってしまった。突然放り出されたディアボロは訳が分からないまま、もぞもぞと布団を被り直す。
『水分補給だけしていろ』?何を言っているんだ、あいつは。俺を植物か何かと勘違いしてるんじゃあないのか・・・?思い返してみると腹が立ってきたが、それよりも急激な眠気が襲ってきてディアボロは素直に目を閉じた。あれだけのことがあったせいで消耗しているのだろう。今は身体を休める方が先決だ。それに、眠っている間は吐き気も感じずにすむ・・・。
ディアボロは一つ欠伸をすると、温かい布団へ横たわったまま、一人静かに穏やかな眠りの中へと落ちていった。

ディアボロが目を覚ましたのは、吉良が帰って来た後だった。
他の住人たちの話し声で起こされたディアボロは目を擦りながら布団の上に起き上がる。吐き気は相変わらずで、立ち上がろうとするだけでも酷く眩暈がした。仕方なくディアボロは腰を下ろしたまま、きょろきょろと辺りを見回す。部屋に姿は見当たらないものの、吉良のスーツと鞄があるので帰って来ていることだけはすぐ分かった。大方台所で夕飯の支度でもしているのだろう。喉が渇いていたが、食事の匂いを嗅がなければいけないことを考えると、ここから出て行くのは憂鬱だった。

「一日中寝ているだけとは、良い御身分だなァ?ディアボロ」
「・・・うるさい。お前も大して変わらんだろうが」
「まあまあDIO、具合が悪い時は誰だって仕方がないよ」
「ふん・・・やはり人間は貧弱だな」

夕飯のためについさっき起こされたばかりなのだろう、寝起きのDIOは大抵機嫌が悪い。ディアボロはしょっちゅうとばっちりを受けるが、それを宥めるのはいつもプッチの仕事だ。今もプッチは夕飯までの間、DIOの世話係を吉良から任されている。勿論本人は喜んで引き受けているし頼まれなくても勝手にやるのだろうが、それでも傍から見ればこの我儘な吸血鬼の相手をするのはなかなか骨が折れる仕事に見えた。

ようやく眩暈がおさまって来たディアボロは、出来るだけ身体を刺激しないようゆっくりと立ち上がる。襖を細く開いて台所の様子を窺うと、案の定エプロンを着けて炊事をする吉良の背中が見えた。まだ本格的に調理を始めている訳ではないのか、特に不快な匂いはしない。
ディアボロは慎重に襖の隙間から滑り出ると、なるべく調理台の方へ近寄らないよう壁際を歩いた。食器棚からコップを出し、冷蔵庫のドアを開ける。ボトル入りのミネラルウォーターを取り出そうとして、ディアボロはふと手を止めた。冷蔵庫の奥に、オレンジジュースのパックが入っている。少し迷ってから、ディアボロはミネラルウォーターの代わりにジュースを取り出した。・・・これが飲みたい。パッケージを見ただけで何故か唾が湧き出してくる。しかし良く見てみると、そこには他の住人の名前がマジックで書かれていた。それでも諦めきれずに、ディアボロは手の中のジュースと冷蔵庫に入ったボトルの水を見比べる。

「おい、何度言ったら分かるんだ!冷蔵庫を開けっ放しに・・・なんだ、君か。何してるんだい?」

誰と間違えたのだろうか、突然声を荒げた吉良がこちらを振り返ったのでディアボロは飛び上がりそうになった。驚いて固まっていると、吉良はディアボロの手の中のジュースを見て呆れたような顔をする。

「それはディエゴのだよ。名前が書いてあっただろう」
「ああ・・・分かってる」

ディアボロは名残惜しい気持ちでジュースを冷蔵庫へ戻すと、水のボトルを取り出してコップに注いだ。一息に煽ると、冷たいものがするすると喉を流れ落ちていく。その感覚は確かに心地良いが、少々味気ないのも事実だ。空になったコップを流しに置こうとして、ディアボロはうっと息を詰めた。何の匂いかと横を見れば、吉良が肉を炒め始めている。ディアボロは慌てて口元を押さえると、込み上げる物を抑えながら部屋へ飛び込んだ。そのままぴしゃりと襖を閉めて、布団を被る。それから全員の食事が終わるまで、ディアボロは一度も布団から顔を出さなかった。

「・・・ディアボロ、もう大丈夫だよ」

吉良の声がしたと思った途端不意に視界が明るくなり、ディアボロは眩しさで目を瞬かせた。ごろりと寝返りを打って天井を見上げると、掛け布団を持った吉良が腰を屈めてディアボロの顔を覗き込んでくる。

「夕飯の後に窓を開けたから平気だろう?」

・・・確かに夕飯後だというのに、何の匂いもしない。ディアボロが布団の上に起き上がると、吉良は溜息を吐いてその隣に腰を下ろした。

「悪かったね。君がまさかここまで大変なことになっているとは思わなかったから・・・」
「お前のせいじゃない」

ディアボロは首を振る。吉良とて、まさか恋人がこんな厄介な状態になっているとは思わなかっただろう。自分でも訳が分からず戸惑っているというのに、他人にそれ以上の理解を求めるのは間違っている。それでも吉良は気遣うような仕草でディアボロの髪を梳った。

「今は落ち着いているのかい?」
「一応な。だが、おそらく一時的な物だろう。カーズの奴が言うには、あと二週間はこのままらしいぞ」
「カーズが?」

ディアボロがカーズの名前を出すと、吉良はひどく驚いたような顔でディアボロを見返した。

「ああ、昼間にいきなり身体を調べられて・・・どうかしたのか?」
「・・・いや、何でもないよ。他にも何か聞いたのかい?」
「そうだな・・・食欲が無ければ無理に食べなくても良いそうだ。水分補給だけしておけと・・・それから」
「それから?」

やけに食い付いてくる吉良を不思議に思いながら、ディアボロはカーズから聞いたことをそのまま口にする。

「これは別に病気ではないから、死ぬことはないらしい。それだけだ」
「そうか・・・安心したよ」

吉良はほっとした様子でディアボロの手を取った。しかし当のディアボロはある物に気を取られて、それどころではない。ディアボロの視線の先にはディエゴが居た。風呂上りのディエゴは首にタオルを引っ掛けたまま、畳の上に胡坐をかいてテレビを見ている。―――その隣には、氷の入ったグラスに注がれたオレンジジュースがあった。

「ディアボロ?」

無言で一点を見つめているディアボロを不審に思ったのか、吉良がディアボロに声を掛けた。そこで初めてディアボロははっと我に返り、吉良を振り返る。

「一体何を―――」

怪訝そうな顔で吉良が何事か言いかけた時、急に二人の視界に大きな影が差した。上を向くと、何やら難しそうな顔をしたカーズが腕組みをしてこちらを見下ろしている。

「吉良、朝の続きだが」
「・・・ああ、そうだったね」

悪いけど少し離れるよ、と言うと吉良は立ち上がり、そのままカーズと部屋から出て行ってしまった。しばらくして玄関のドアが開く音もしたので、二人して家の外で話をしているらしい。
ディアボロは急につまらなくなって布団へ仰向けに寝転んだ。朝から二人は一体何を話しているのだろうか・・・。自分には言えないようなことなのか?そこに特別な感情はないと分かっていても、吉良が自分以外の人間と秘密を共有しているところを見せつけられるのはどうにも面白くない。そうでなくたって、恋人が苦しんでいるときにわざわざそんなことをしなくても良いだろう・・・。ディアボロはごろごろと寝返りを打ちながら吉良が戻ってくるのを待つ。

しかし、待てど暮らせどなかなか吉良は帰って来ない。そうこうしている内にまた気持ちが悪くなってきた。棺の上で優雅にワインなど飲んでいるDIOを横目に、ディアボロはふらついた足取りで手洗いに向かう。朝と同じようにドアを閉め、便器を抱えて唸っていると壁の向こうからふと誰かの話し声が聞こえて来た。

「ディアボロがそれを飲みたがったのか?」
「いや・・・本人に聞いた訳じゃあないから、ただの推測だよ」

カーズと吉良だ。ディアボロは床に座り込んだまま耳をそばだてた。二人は家に戻って来たらしい。おそらく手洗いの横・・・洗濯機の前辺りで話しているのだろう。

「ふうむ、だが全く有り得ん話でもないだろう」
「やっぱりそうなのか?酸っぱい物が欲しくなるっていうのは聞いたことがあるんだ・・・」

このまま聞いていれば、何か分かりそうな気がする。ディアボロは吐き気も忘れて懸命に耳を澄ませた。しかし、そこでちょうど吉良が洗濯機のスイッチを入れたせいで話し声はさっぱり聞こえなくなってしまう。クソっ・・・あともう少しだったのに!ディアボロは舌打ちをして悪態を吐いた。盗み聞きを諦めて立ち上がり、トイレの水を流す。外へ出ると二人はもうすでに居なくなっていた。

「どこへ行ってたんだい?心配したよ」

部屋に戻ると、吉良が先程と同じように布団の横へ腰を下ろしていた。

「気分が悪かったんだ」

ディアボロが疲れ切った顔で布団へ潜り込むと、吉良は驚いたように目を瞬かせる。

「そんなに酷いのか?」
「お前が居ない間・・・朝からずっとこうだぞ」

これで二週間も過ごさなければならないことを考えると恐ろしくなる。カーズの口ぶりからすると、もっと期間が伸びる可能性だってあるのだ。・・・勘弁して欲しい。

「それじゃあ何も食べてないんだろう」
「・・・ああ」
「飲み物は?」
「夕飯前に水を飲んだのがちょうど無駄になったところだ」
「あまり辛いようなら、ドッピオくんに代わって・・・」
「ドッピオをこんな目に合わせられるか!」

ディアボロは吉良の提案を遮り、不機嫌な顔で布団から顔を出す。カーズと密談をしていただけならともかく、ドッピオの事まで口出しされるとは・・・。急に腹の底からふつふつと怒りが湧いてきてディアボロは吉良を睨みつけた。

「今お前に出来る事などない。もう放っておいてくれ」

ディアボロの突き放すような口調に、吉良は一瞬呆気にとられた様子で固まる。・・・言ってしまった。ディアボロは冗談ではなく殺されるかもしれないと一瞬後悔したが、吉良は意外にもすぐにいつもの調子を取り戻し、冷静な顔で頷いた。

「・・・分かったよ」

ディアボロは頭の先まで布団を被ると、遠ざかっていく吉良の足音を聞きながら寝返りを打つ。今はとにかく目に入るもの全てに対して無性に腹が立った。吉良に当たるのは間違いだと分かっているのに自分を抑えることが出来ない。しかし、余計なことを言ってしまわない内にこうしておいて良かった、という気持ちもあった。これ以上拗らせてしまってからでは遅い。ディアボロは溜息を吐いて全てを忘れようと目を閉じた。

翌日からディアボロの体調は悪化する一方だった。
遂に水も受け付けなくなった身体ではろくに動くことも出来ない。布団に起き上がるのさえ一苦労だ。朝食の後、吉良が水の代わりにスポーツドリンクを持って来たのだが、それすら直ぐに吐き出してしまう。ディアボロは四六時中吐き気に苛まされ、随分気が立っていた。

「それじゃあね、ディアボロ。行ってくるよ」

吉良が出勤前に声を掛けて来ても、ディアボロは布団へ潜ったまま一言も口をきかなかった。玄関のドアが閉じる音を聞くと、ようやくディアボロはそろそろと布団から顔を覗かせる。部屋を見回したが、他の住人達は皆出払ってしまっているようだった。ディアボロの機嫌が悪い上に、四六時中匂いやら何やらに気を遣わないといけないのが面倒なのだろう。ディアボロも一人でいる方が気楽なのでむしろありがたい。
吉良が帰って来るまで、ディアボロは何度となく水やスポーツドリンクを口にしては手洗いと布団を往復した。どうせ水分を摂ったところで無駄になるのだが、胃の中に吐くものが無いよりは大分マシだ。カーズはこれで死ぬことはないだろうと言っていたが、本当だろうか?もうすでに死にそうになっているのだが・・・。ディアボロはともすると浮かんでくる弱気な考えを打ち消しながら、早く時間を過ぎていくのをひたすらに待った。

夜になり、吉良が帰って来てからも体調に変化は見られなかった。結局朝から飲み物以外の物は口にしていない。もうすっかり消耗してしまったディアボロは、力なく布団に横たわったまま仕事帰りの吉良を迎えた。普段ならそんなことをすれば『だらしない』と小言を言われるのだが、流石の吉良も今日ばかりは何も言わない。それどころか、一度手洗いに行こうとして間に合わず、板張りの床へ粗相をしてしまった時も吉良はディアボロを叱らなかった。

「これは私が片付けておくから、君は早く部屋へ戻って休んでいてくれ」
「・・・何?」
「後で盥と水を用意してあげるよ。ほら、早く布団に寝て」

吉良は床の上にしゃがみこんだディアボロを抱えるようにして立たせると、襖を開けて部屋へ押し込む。ディアボロが半分開いた襖の隙間からそっと外を覗くと、吉良が雑巾で床を拭いているのが見えた。・・・妙だ。今までなら考えられないような状況にディアボロは首を傾げる。

「ディアボロ、貴様相変わらずのようだな」

突然DIOに背後から話しかけられ、ディアボロは襖の隙間から目を離した。振り返ると嫌な笑みを浮かべたDIOが棺に凭れて何か飲んでいる。ディアボロは顔を顰めてDIOの手の中のグラスを睨みつけた。シャンパンのような色の液体がゆらゆらと揺れている。

「・・・また酒か」
「酒?何の話だ。これはただの炭酸飲料だぞ」
「嘘を吐け」

DIOはニヤリと笑うと、これ見よがしにグラスを煽った。

「なんなら飲んでみるか?酒かどうか、確かめてみろ」
「・・・貸せ」

―――どうせ吐くのだ、どうにでもなれ。
自棄になったディアボロは部屋を横切ってDIOの手からグラスを奪い取ると、一息に中の液体を飲み干した。強い炭酸で喉が痺れる。流し込んだので酒かどうかは良く分からなかったが、もうそんなことはどうでも良かった。手の甲で口を拭いながらグラスを突き返すと、DIOは呆れたような顔でディアボロを見上げる。

「馬鹿め・・・無茶をする奴だ」
「酒じゃないんだろう?」
「正真正銘、ただのジンジャーエールだ」

ディアボロは舌打ちをするとDIOから離れ、自分の布団に戻った。そろそろ吉良が部屋に来る頃だろう。言われた通り休んでいるところを見せなければ、今度こそ何を言われるか分からない。案の定、布団へ入ってから一分も経たない内に襖が開き、水を入れたコップと盥を持った吉良が現れた。

「おい、吉良」
「なんだ?」

吉良はディアボロの世話をする手を止め、DIOを振り返る。DIOは空になったグラスを吉良の方へ突き出した。

「ついさっきディアボロにジンジャーエールを飲まれてしまってな。買ってきてくれ」
「おい、ふざけるな!違う、吉良・・・これはあいつが、」

ディアボロが弁解しようとしても、吉良は何か考え込んでいるようで少しもこちらの話を聞こうとしない。いつもなら無駄な争いごとを起こそうとした住人には容赦しないはずなのだが、今の吉良はすっかり別のことに気を取られて怒るどころではないらしい。

「ディアボロ、君ジンジャーエールは飲めたのかい?」
「は?ま、まあな」
「吐き気は?」
「それほどでも・・・」
「なるほど」

それを聞いた吉良は一人勝手に頷いて立ち上がった。ディアボロも慌てて立ち上がろうとしたが、吉良に布団へ押し戻されてしまう。

「ちょっと買い物に行ってくるよ。ついでに、ジンジャーエールも買い直して来よう。それでいいかい?」
「・・・ふん。勝手にしろ」

DIOはつまらなそうな顔をして畳の上へ寝転ぶ。吉良は上着を着ると、財布と買い物袋を持って急ぎ足で家を出て行った。おかげでディアボロはまたDIOと二人きりだ。こういう時に限って他の住人は皆出払っているのだから嫌になる。夕飯後に外出する用事など、そうそうあるものでもないと思うのだが・・・。

「ところで貴様、吉良とはどうなんだ」

夜の方の話だぞ、と付け足してDIOは妙に真面目な顔で起き上がる。いきなり何を言い出すのかとディアボロは目を剥いた。

「何故俺がそんなことをいちいち言わねばならん」
「良いから言え。随分とご無沙汰なんだろう?」
「・・・・・・そうだ」

ディアボロは長い逡巡の末、舌打ちをして頷いた。事実、ここ二ヶ月は一度もそういうったことをしていない。ディアボロも不思議と欲求が湧かなかったためそのままにしておいたのだが、吉良のことを考えるとやはりこれは不味かっただろうか。しかし、吉良はどちらかといえば自分の欲望に素直な男だ。したい時には我慢などせず、場合によってはこちらの都合など全く無視してでも自分を抱こうとするだろう。・・・とすれば、吉良が求めて来ない理由は一つ。

「ディアボロ、貴様・・・飽きられたんじゃあないのか」
「ぐっ・・・」

DIOの言葉は思いの外ディアボロの心に深く突き刺さった。吉良の最近の気遣いは確かに妙だった。浮気をしている男はいつもより陽気になったり、変に優しくなったりすると聞いたことがある。ディアボロとて、恋人の愛情を疑いたくはないが・・・あまりにも不自然なことが多過ぎた。それにカーズとの密談。これもディアボロの心を酷く波立たせる。自分には言えないようなことを隠し持っているところからして、如何にも怪しい。流石にカーズとはデキていないだろうが、それでも何か関わりがあることは確かだ。いや、しかし吉良は本当に俺のことを心配して・・・。ディアボロはぐるぐると思考を巡らせる。

「おい・・・どうした?」

急に深刻な顔で黙り込んでしまったディアボロを不審に思ったのだろう。しばらくの間DIOはしきりにこちらへ話しかけていたが、すっかり上の空でディアボロが生返事を繰り返している内に、諦めて部屋を出て行ってしまった。暫くすると水音が聞こえてきたので、どうやらシャワーを浴びているらしい。一人になったディアボロは布団の上に蹲り、立てた両膝に顔を埋める。ぼんやりとした頭の中で先程のDIOの言葉と不安な出来事がない交ぜになって浮かんでは消えた。

「ただいま」

DIOが風呂から上がる前に吉良は帰ってきた。襖が閉じているので分からないが、冷蔵庫を開ける音がしたのでおそらく食料品を買ってきたのだろう。買った物を片付けたらすぐ部屋に戻って来るかと思ったが、吉良はその後も何やら台所でごそごそやっているらしかった。気にはなるが、ディアボロもわざわざ部屋の外へ顔を出すことはしない。
しばらくすると、吉良はグラスを一つだけ乗せた盆を持って部屋に入ってきた。中身は底に行くほど黄色味が強くなる、透き通ったグラデーションの液体だ。吉良はどうしたことかそのグラスをディアボロの前に差し出した。

「・・・何だ?」
「レモネードだよ。君もこれなら飲めるんじゃあないかと思ってね」

ディアボロは少し迷ってからグラスを受け取る。口を付けると舌の上で酸味がぴりぴりと弾けた。ほんの少し、ジンジャーの風味がきいているようだ。炭酸で割ってあるようだが、これを作るためだけにわざわざ買い物に行ったのだろうか・・・?

「無理して食べる必要はないらしいけど、水分補給だけはちゃんとした方がいい」
「ああ・・・悪いな」

確かに不思議とこれの匂いを嗅いでも不快ではないし、吐き気も軽くなっている。先ほどジンジャーエールを飲んだのでそれほど喉は乾いていないが、水分補給は出来るときにしておいた方が良さそうだ。ディアボロは布団に足を入れたまま、ちびちびとグラスを傾けた。

「どうした?」
「・・・なんでもないよ」

とてもではないが、『なんでもない』様には見えない。鼻歌でも歌いだしそうな様子で吉良は布団の横に腰を下ろすと、ディアボロの肩を抱き寄せた。吉良の手が伸びて来て、グラスを持っていない方の『彼女』を執拗に撫でさする。

「何時もより随分と機嫌が良さそうだな」
「そうかい?」
「ああ・・・」

吉良は機嫌よく微笑んで、頬に掛かったディアボロの髪を掻き上げる。ディアボロはくすぐったさに肩をすくめながらも、見たこともない吉良の様子に微かな違和感を覚えていた。

「そうだ、君のために本を買ってきたんだ。忘れていたよ」

吉良は片手を伸ばして仕事用の鞄を引き寄せると、中から紙袋に包まれた本を取り出した。

「一日中動けなくて退屈しているだろうと思ってね。こんな田舎じゃあイタリアの雑誌なんてなかったから、代わりに旅行の本を買ったんだ」
「旅行?」

旅行に行くことなどあるのだろうか?今までそんな話は一度も聞いたことがないが・・・。
ディアボロはますます訝しみながらもグラスを置き、吉良の手からその本を受け取った。仕事帰りに買ったのだろうか、紙袋に印刷されているのは知らない店の名前だ。封をしていたシールを剥がして中を開けると、そこには国内旅行の雑誌が入っていた。日本語はまだ良く読めないので詳しくは分からないが、表紙には温泉や有名な観光地の写真が並んでいる。

「いつか旅行に行こうと思ってね。来年か・・・少なくとも再来年には」
「お前がか?」
「私と君が、だよ」

ディアボロはぱらぱらと雑誌を捲っていた手を止め、吉良の顔を凝視した。

「何故俺とお前が旅行に行くことになってるんだ・・・」
「付き合ってから今まで、どこにも遠出したことなかっただろう」
「それは・・・そうだが」
「少しぐらい二人だけで楽しんで来たって、ばちは当たらないさ」

そうは言ってもこの家の住人たちのことである。吉良とディアボロが旅行に行くと知ったら、確実に着いて来たがるだろう。もし仮に上手く言いくるめることが出来たとしても、他の住人だけを残して家を空けるのはかなり不安だ。それこそ、帰ってきたら近所や大家からのクレームが殺到しているような事態になりかねない。

「・・・大丈夫なのか?」
「もう皆には言ってあるよ。家を空ける間は大人しくする約束もしてもらった」

まあ、まだ当分先の話だけどね。
吉良は事もなげに言い放つと、ディアボロの隣に座って雑誌を横から覗き込んで来た。

「本当は海外が良かったけど、君はパスポートが取れないから諦めたんだ。代わりに温泉なんてどうだい?」

吉良の手が伸びてきて、明るい写真に塗れた雑誌のページをぱらぱらと捲る。

「君は刺青があるから、少し値が張るけど部屋にお風呂が付いてる宿じゃないといけないな・・・うん?」
「どうかしたのか?」

何やらぶつぶつと呟いていた吉良が、ふとページを捲る手を止めた。ディアボロが何事かと思って視線を辿ると、そこには露店風呂に浸かる女の写真がある。吉良の眼はその女の手に釘づけになっていた。整った爪。節の目立たないすらりとした指先。女の手は白く嫋やかだが、湯で濡れたせいか血色のよい艶を匂わせている。

「なかなか良い手だね・・・」
「・・・ふん」

吉良はその手が気に入ったのか、旅館の吟味を放り出して熱心にその写真を眺めまわした。まるで如何わしい写真でも見ているかのような、随分と熱のこもった視線である。後で写真を切り抜きでもするんじゃないだろうな・・・。いずれにせよ面白くないディアボロはむっと眉間に皺を寄せた。たかが手だとは分かっているのだが、それにしたって浮気は浮気だろう。たとえ身体の一部分であったとしても、他の女・・・自分は女ではないが・・・を褒めるのはマナー違反じゃないか?

「それに引きかえ君は・・・」
「あ?」
「これじゃあ美女が台無しだよ。可哀想に、早く治してあげないと」

吉良は溜息を吐いてディアボロの手を撫でた。ろくに水分も摂れないせいか、ディアボロの手は少しずつ荒れ始めている。皮膚がかさついているだけでなく、指先には小さなささくれが出来ていた。

「そういえばこの前、会社の会議で久しぶりに『彼女』以外の美しい人を見たよ。美しいというのは勿論、手首から先の話だけどね」
「・・・何だと?」

ディアボロの頭にはDIOの言葉が浮かんでいた。―――飽きられたんじゃあないのか。現に今の吉良の話からは、浮気心とまではいかないまでも、多少の下心が透けて見える。さっきの写真の話も―――。自分を捨てて乗り換えようとしている可能性だって、無きにしも非ずだ。

「それが、なかなか綺麗な人なんだ。身近に居たのに、部署が違うから今まで全然気付かなかったよ」
「まさか・・・その女に何かしたのか!?」

ディアボロは急激に頭に血が上っていくのを感じた。吉良は訳が分からないといった様子で、唐突に大声を上げたディアボロの肩を押さえている。

「どうしたんだい、急に・・・」
「・・・DIOの言っていた通りだ!」
「DIO?何でDIOが出て来るんだ?」
「うるさい・・・俺に飽きたならはっきり言えばいいだろう!」

ディアボロは吉良を突き飛ばすと、激情に任せて転がるように押入れへ飛び込んだ。派手な音を立てて襖を閉じ、吉良を完全に拒絶する。ディアボロは押入れの中で布団に埋もれながら蹲った。自分でも理解できないが、急に感情が昂って上手く思考がまとまらない。やがて襖の外から吉良と部屋へ戻ってきたDIOの口論する声が聞こえてきたが、ディアボロは閉じこもったまま一人さめざめと涙を流した。こんなことぐらいで、と頭の隅では分かっているのだが、嵐のような怒りと悲しみが胸を掻き乱す。今までこんなに激しく感情をぶつけたことはなかったから、吉良の方も驚いていることだろう。
結局ディアボロは泣き疲れて眠ってしまうまで、暗い押入れの中で声を押し殺すこともなく延々涙を流し続けた。

「目が覚めたかい?」

気が付くとディアボロは押入れの外に寝かされていた。布団はなく、直に畳の上へ横たわっている。ささくれた畳の目がちくちくと肌に刺さった。

「俺は・・・」

ディアボロは身体を起こして辺りを見回す。DIOは出て行ってしまったのだろうか、部屋の中には吉良とディアボロしかいない。ディアボロは目を擦りながら身体を起こした。

「DIOに聞いたよ。私が浮気してると思ったのかい?」
「・・・別に」

眠る前に何があったのか思い出したせいで、ディアボロの機嫌は急降下していった。つんとそっぽを向くと、不機嫌になったことを察した吉良が困ったような顔でディアボロの手を取る。一瞬振り払おうかとも思ったが、流石にそれは大人げないと思い直し、ディアボロは吉良に手を掴まれたまま黙り込んだ。

「質問を変えようか。DIOに何を言われたんだ?」
「・・・思い出させたいのか?」
「そうじゃないよ。君が不安に思っていることがあるなら、それはちゃんと取り除いてあげたいんだ。誤解を解かずにいるのはお互いのためにならないよ」
「ふん・・・」

ディアボロは吉良の方へ向き直ると、猜疑に満ちた目で吉良を睨みつける。

「吉良、お前は俺に飽きたんじゃあないのか?」
「そんな訳ないだろう」
「ならば何故、俺を抱こうとはしないんだ」

吉良はディアボロの問いに目を見開いたが、その表情には困惑よりも焦りの方が色濃く表れていた。

「抱くっていうのは・・・夜の話かい?」
「そうだ」
「それは・・・とにかく、今はだめなんだ。分かってくれ。あと一ヶ月もしたら前の通りにするよ」
「一ヶ月?何で一ヶ月なんだ」

ディアボロとて別に今身体を繋げたいという訳ではない。むしろ身体が怠く、一日中眠気に纏わりつかれているのでそういう欲求はほとんどなかった。自分で処理したのだって、もう随分前の話だ。それでも吉良に拒絶されるのは堪えがたかった。

「最近妙だとは思ってたんだ・・・何か俺に隠しているんじゃあないのか!?」
「それは・・・ああもう、面倒くさいな・・・!」

ディアボロが問い詰めるように声を荒げると、吉良はいらいらと爪を噛み始める。

「本当はもう少し後で言うつもりだったんだが・・・計画を前倒しにするよ。君が聞きたいと言ったんだから、私が何を言っても驚かないでくれ。いいね?」

先程までの理性的で辛抱強い態度はなりを潜め、吉良本来の激情的とも言える性格が表れ始めている。吉良に気圧されてディアボロはこくこくと頷いた。

「良いかい・・・君は今妊娠しているんだ」

吉良が口を閉じると、しんとした沈黙が部屋に降りた。
処女懐胎。聖書の中だけでしか有り得ないような事象だが、元々対した信心もないディアボロはそんな話を本気で信じている訳ではなかった。・・・では、男は?
数秒前までのディアボロならば、即座に笑い飛ばしていただろう。男が妊娠など出来るものか。大体腹の中で育てる器官がないだろう。赤子の素の片割れである卵を作る器官だって。だから目の前の男が言っていることは嘘に違いない―――。しかし、目の前の吉良は恐ろしく真面目な顔でこちらを見返している。

「嘘だ・・・」
「嘘?私がいつ君に嘘を言ったんだい」

吉良はディアボロの否定にますます苛立ったらしく、低くなった声のそこかしこにトゲを含ませていた。

「もう一度、自分が言ったことを思い出してみろ」
「何度聞いても、本当のことだよ」

『君は妊娠している』

「ふざけるなッ!」
「誰がふざけてるんだい?ふざけてるとしたら、君の方だろう。確かに、君を納得させるのに一筋縄ではいかないだろうとは思っていたよ。でも、こんな簡単なことを何回も言わないといけないなんて・・・」

頭に血が上って頭痛がするのか、吉良はしきりにこめかみを押しながら溜息を吐いた。

「妊娠させたことを怒るならまだしも、根本的なところから認めてくれないと話が進まないじゃあないか。どう説明したら君は理解出来るんだろうね・・・頭痛がしてきたよ」
「それはこっちの台詞だ!俺は男だぞ!」
「ああ・・・そうか。そこから教えれば君でも分かってくれるのかな」

苛立った吉良は厭味ったらしく『君でも』のところをやけに強調する。馬鹿にされていることが無性に腹立たしかったが、これ以上吉良の機嫌を損ねれば、それこそ永遠に何が起こっているか知ることが出来なくなるかもしれない。ディアボロはぐっと言葉を呑み込んで、大人しく吉良の話に耳を傾けてやることにした。

「御託はいい。さっさと説明しろ」
「実はカーズに協力を頼んで、君の身体を改造してもらったんだ」
「・・・は?」
「男の身体のまま妊娠出来るように弄ってもらったんだよ。君が死んでから目を覚ますまでの間にね」

今、目の前の男は何か恐ろしいことを言った気がする。つまり、なんだ。自分が妊娠しているというのは・・・本当なのか?

「それは・・・どういう・・・」
「君も身体の外見はそのままの方が何かと都合が良いだろう?生まれた後のことはどうにかするとして、取り敢えず子供を産むために必要な器官をカーズが君の中に植え付けた・・・普通のセックスだけで子供が出来る可能性はかなり低いと聞いたんだが、上手くいったみたいで何よりだよ」

ディアボロは目の前の男が何を言っているのか、半分も理解できなかった。ただ一刻も早く、目の前の男から逃げ出さねばならないことだけは分かる。こいつは頭がおかしい。勝手に人の身体(しかも死体だ!)を改造させて孕ませるなど、まともな神経ではない。いや、まともでないのは初めから分かっていたことだが・・・ここまでとは。
恐怖に駆られたディアボロが後ずさって離れようとすると、吉良は素早くディアボロの腕を掴んで強引に引き寄せた。

「ひっ・・・」
「どこへ行くんだい?」
「は、離してくれ・・・」
「・・・質問の答えになっていないよ、ディアボロ」

何が嬉しいのか、吉良はうっそりと微笑んでディアボロの腹をまさぐる。ディアボロは短い悲鳴を上げてその手を押し退けた。情けないが、腰が抜けて立ち上がれない。ずりずりと身体を引きずるように畳を這い、逃げ出そうとしたものの今度は足首を掴まれて引き倒されてしまった。

「う、う・・・」
「私は本当に君のことを愛しているし・・・心配もしているんだよ。それをこんな風に無下にするなんて、ひどいじゃあないか。ン?」

吉良は心底訳が分からないと言った顔でディアボロの隣にしゃがみこむと、髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。

「お前は異常だ・・・そんなこと出来る訳がない・・・」
「『出来る訳がない』?そんなことっていうのは、子供を産むってことかい?」

吉良の顔色がさっと変わる。危険信号を嗅ぎ取って、ディアボロはますます身を縮こまらせた。

「君はいつもそうやって否定的なことばかり言うね。死に続けているせいでネガティブになっているのは分かるけれど、少しは前向きな姿勢を見せてくれ」

こんな状況で、しかも勝手にされたことに対して一体どうやって希望を持てというのだろうか。ディアボロは唇を噛んで黙り込む。

「・・・まあ兎に角、君は子供に関して余り良い思い出はないかもしれないけど、そうやって後ろ向きなことばかり考えているのは良くないよ」

ディアボロが口を噤んでじっとしている内に、吉良は再び冷静さを取り戻したようだ。吉良の手がディアボロの肩を押し、身体を仰向けにひっくり返す。されるがままのディアボロは死んだ蝉のように固まって、目だけを吉良の方へ向けた。

「愛する人との子供が欲しいと思うのは普通のことだろう?」
「俺達が『普通』の恋人や夫婦だったらな」
「『普通』だよ。愛し合っているんだから」

吉良はディアボロの手を取って指先に口づける。ディアボロは寝転がったまま溜息を吐き、鬱々とした気持ちでその姿を眺めた。

「・・・産んでくれるね?」

あれだけ好き放題に言っていた癖に、吉良は急に不安げな様子でディアボロの顔を覗き込んで来る。ディアボロも色々と言いたいことがあったのだが、珍しく弱気な恋人の姿に何も言えなくなってしまった。自分でも甘いとは思うが、惚れた弱みとでも言うのだろうか。それに一度や二度拒否した程度で目の前の男が諦めるとも思えない。どうせあの手この手で迫られるくらいなら、今の内に了承した方が拗らせずに済むともいえる。知らない内に自分の身体を弄られるのはもう沢山だ。
本来ならばもっと良く話し合わねばならない事だとは分かっているものの、ディアボロは渋々ながら現状を受け入れることを選んだ。

「もういい・・・出来てしまったものは仕方がない。これが俺だけの子なら好きにしたかもしれんが・・・」
「良かったよ。最初から教えてしまったら、お腹の子が流れてしまうかもしれないと思って言わなかったんだ。あまりショックが大きいと母体にも胎児にも良くないそうだし・・・。折角妊娠したのに、産む前に死んでしまったら元も子もないからね」
「それなんだが、妙じゃないか?」

ディアボロは畳の上に起き上がって、首を傾げた。

「この腹の子は何故ずっと俺の中にいるんだ。母体の俺が何度も死んでいるんだから、普通ならとっくに死んでるんじゃないのか?」
「それは私も不安だったよ。カーズに相談してこの方法を提案された時、最初は君のレクイエムの影響で上手くいかないんじゃないかと思ったんだ」

吉良の話によると、ディアボロの腹に疑似的な子宮を植え込んだのが約三ヶ月前。
それ自体は上手く植わったものの、レクイエムで死んで戻ってきた時に消えてしまっていれば意味がない。初めは吉良もこの方法で上手くいくかどうか半信半疑だった。しかし植え込んだ翌日、ディアボロが何度目かに死んだ直後カーズを使って確認させたところ、なんと疑似子宮はそのまま体内に残っていたのだという。その後も何度か同様に試してみて分かったのだが、この疑似子宮は消えてしまうこともあれば残っていることもあったらしい。

「これはあくまでも推測なんだが・・・君の身体の性別が変わることで、レクイエムが君を認識しにくくなっているんじゃないかな?だから何度かに一度は取りこぼしが生じる・・・」
「だが、そう上手く幸運が続くわけじゃないだろう?一度消えてしまったら、子供が出来るところからまたやり直しに・・・」

ディアボロの言葉に吉良は首を振る。

「これが不思議なんだ・・・妊娠が分かってから君の身体から疑似子宮が消えたことはない」
「何?」
「君のレクイエムは、君以外の誰にも害を及ぼさないようになっているだろう?考えてみてくれ。いつも君ひとりが死ぬだけで、巻き添えになって死ぬ人間は今まで一人も居なかったはずだ」
「それは・・・そうだが・・・」
「君のお腹の中の子は、レクイエムに別の生命として認識されているんじゃないかと思うんだ。その証拠に君が死んでも、戻って来た後はまたちゃんと君の中で生きていたよ」

なんだか腑に落ちない話だが、今までもレクイエムの誤作動はあった。ディアボロ自身このレクイエムの全容を把握している訳ではない。つまるところ、何が起こっても不思議ではないのだ。ここで吉良の仮説が正しいか否かを論じることは不毛というものだろう。

「結局いつからお前は俺が妊娠していることを知っていたんだ?」
「君が二度目の体重を量った夜だよ。もしやと思って、君が寝ている間カーズに調べさせたんだ。その時が確か妊娠一ヶ月だったかな」
「何故その時に言わなかった!」

ディアボロが吉良に掴みかかると、吉良はディアボロの肩に手を置いて宥めながら呆れたような顔をした。

「だからさっき説明しただろう。言ったら流れてしまうと思ったんだ。母体の精神状態が子供の成長に影響するというのも聞いていたし、カーズにも安定期までは黙っておいた方が良いと言われてたんだよ。これから何かと面倒をかけるだろうから、他の皆には知らせたけどね・・・皆すぐに理解してくれたから助かったよ」
「なッ・・・じゃあ他の連中は全員お前の企みを知っていたのか!?」
「『企み』なんて人聞きの悪い言い方はしないで欲しいね。それに出産も子育ても、周りの協力は必要不可欠だよ」

周りの協力?そんなものがここの住人に期待できるものか!

「お前・・・ここの奴らが全員まともじゃあないのは知っているだろう!よくもそんなことが言えたな・・・」

ふうふうと荒い息を吐いて、ディアボロは横座りしたまま腹をさする。急に下腹が突っ張ってきて眩暈がした。

「あまり興奮しないでくれ。お腹の子に良くないよ」
「誰のせいだと思ってるんだッ!」

最初から最後まで、全部お前のせいじゃないか。ディアボロは吉良に恨めし気な視線を送ったが、吉良は涼しい顔でディアボロの髪を掻き上げた。

「今は君だけの身体じゃあないんだから・・・もう少し落ち着いて」
「・・・ふん」

何を一丁前に親のような台詞を・・・などと言ってしまうとまたややこしくなるだけなので、流石に口を噤む。思うだけはタダと内心散々悪態を吐き、それですっきりしたディアボロは諦めて溜息を吐いた。今の所吉良の考えていることは分かったし、現状に関してはもう納得するしかない。しかし、それでもまだディアボロの中の不安が全て消えた訳ではなかった。

「・・・あと数ヶ月もすれば、腹も大きくなるだろうな」
「そうだね。気になるのかい?」
「お前はそんな身体になった俺を愛せるのか?」

出産までの間に浮気されては堪らない。今回は勘違いで済んだものの、出産までまだまだ先は長いのだ。ディアボロはその間に吉良の気持ちが自分から離れてしまうのではないかと懸念していた。吉良の協力が得られなければ、とてもではないがこの環境の中で腹の子を産める気がしない。いや、実際に子を取り上げるのはカーズなのだろうが・・・それでも父親は必要だ。特に母体である自分が死んでばかりなのだから、どうしたって産んだ後自分以外の者に世話を頼まなければならない状況が来るはずだ。ここの住人たちがいくら協力的であるとはいえ、そこで一番頼りになるのはやはり父親じゃあないのか?

「そんなことが心配なのかい?私は逆に楽しみだよ。君のお腹が大きくなるなんて、まさしく君が私の物になった証拠だろう。自分が孕ませたんだと思うと、むしろ興奮してくる・・・」
「・・・もういい」

これ以上話を聞いていると、逆に聞きたくなかったことまで聞かされそうだ。ディアボロは顔の前で手を振って吉良の言葉を遮ると、出来るだけ今のうちに出産や妊娠のことについて調べるべく、ちゃぶ台の上にあるPCへ手を伸ばした。いくら死んでも平気な身体とはいえ、出来れば安全にこの異常事態を乗り切りたい。つわりの時期は過ぎたようなので、そろそろ安定期以降のことについて知る必要があるだろう。せっせと検索して情報を集めていると、吉良がディアボロの隣に座って画面を覗き込んできた。

「ところで、ドッピオくんのことはどうするんだい?」
「・・・逆に聞くが、今交代したらドッピオの身体はどうなるんだ?」
「その場合は、君と同じように妊娠した状態になってるんじゃないかな。見た目が変わるといっても、身体自体は共有している訳だし」

詳しくはカーズに聞いてみないと分からないけどね、と吉良は首を傾げる。ディアボロは顔を顰めてパソコンの画面から顔を上げた。

「それはダメだ。やはり出産するまでは交代できないな」
「生まれたらどうするつもりだい?この先ずっとドッピオくんと代わらない訳にもいかないだろう。それに誰の子だって聞かれたら・・・」
「正直に俺の子供だと言ってくれ。・・・俺が『産んだ』とは言わなくていいぞ」

そんなことを言えば確実に混乱を招くだろう。自分の子供だと言っても嘘ではないのだから、その程度の説明に留めておいた方が無難だ。他の住人達にも、ドッピオには黙っておくよう強く言っておかなければ・・・。

「大丈夫かな。誰との間の子か、気にするんじゃないか」
「ドッピオはああ見えて賢い子だ。機密だと言えば余計な詮索はしないだろう。・・・それに相手が誰だったとしても、俺の子だと言えばドッピオは喜んで世話をする」

そうだ、生まれた後のことも考えないといけない。
ディアボロはマウスを握る手を止める。自分たちは何もかも特殊な状況にいるのだ。先のことを考えるのに早すぎるということはないだろう。

「おい、この国には赤ん坊の健診とかいうものがあるんだろう。この子にはそういったことが出来ないんだぞ。病気になったりしたらどうするんだ」
「うーん・・・そういう面は全てカーズに頼むしかないだろうね」
「・・・教育はどうする。俺は能無しを育てるつもりはないぞ」

人外は別としても、国際色豊かなこの家では使っている言語すらバラバラなのだ。スタンドを持っている者はそれで大よそ解決しているから良いものの、赤ん坊となればそうはいかない。

「まず第一に日本語は必要だと思うけど、君が育てるなら自然にイタリア語も覚えるんじゃないかな?・・・それからDIOが張り切って英国式の英語を教えてくれるだろうね」
「余計なことをしたら子供が混乱するだろうが・・・」

教育についてはひとまず保留だな、とディアボロは溜息を吐く。差し当たっての問題は赤ん坊をどうやって育てるかだ。大抵の問題は金銭で解決できるが、母乳に関してはそうもいかなかった。ディアボロは当然母乳など出ない。ミルクで育てるにしても、初めから飲んでくれるものかどうか・・・。ディアボロは育児のページを覗き込みながら真剣な顔で首を捻る。

「吉良、俺は母乳など出ないぞ。どうするつもりだ」
「時期がきたらカーズがまた君の身体を弄ることになると思うよ。まだ実験中らしいけど、必要な時までには何とか間に合わせるそうだ」
「・・・どうせそんなことだろうと思った」

よく本人の了解も得ずにそんなことが計画出来たものだ・・・。
ディアボロはばったりと仰向けに畳へ倒れ込むと、首だけ起こして自分の腹をしげしげと眺めた。

「どうも全体的に他人頼りだな・・・本当に大丈夫なのか?」
「心配しなくてもきっと上手くいくよ。それより」
「何だ?」
「君・・・意外と子煩悩なんだね」

吉良はちゃぶ台の上のパソコンとディアボロの顔を交互に覗き込んでは、複雑な顔をしている。すっかり産む気になっているディアボロは呆れたように眉を吊り上げた。

「当たり前だろう、自分が産むんだぞ。お前にも、もっとしっかりして貰わないと困る」
「父親か・・・何だか不思議な感じがするよ」
「人のことを勝手に孕ませておいてよく言う」

ディアボロが足で軽く吉良を小突くと、吉良はディアボロの隣へ寝転んで腕を伸ばしてきた。ディアボロの背中に腕を回すなり、ぐいと自分の方へ抱き寄せる。ディアボロは吉良が就寝以外で畳の上に寝転がるところなど見たことがなかった。ぱちぱちと瞬きをして横を向くと、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見返している吉良と目が合う。

「どっちに似るかな」
「さあな・・・男か女かは気にならないのか?」
「手が綺麗ならどちらでも良いよ。まあ、私と君の子ならそこは心配いらないだろうけどね」
「・・・呆れた奴だ」

ディアボロは吉良の腕の中で唇を尖らせた。まあまあと笑って吉良はディアボロの手を取る。

「きっとこの子は幸せになるよ」
「何故そんなことが分かる」
「君は知らないだろうけど、この子が生まれるのを皆楽しみにしているんだ。産まれたら大事にしてもらえるさ」
「本当か・・・?」

驚いたディアボロが起き上がろうとすると、吉良の腕が優しくディアボロを引き戻した。大人しく吉良の腕に従って、ディアボロはまた畳の上に横たわる。

「しかし、ここの連中はろくな奴らじゃあないぞ」
「それでも愛してくれる人は多い方が良いよ。君もそう思うだろう?」

吉良は真面目な顔でディアボロの腹に手を乗せた。

「まあ・・・それもそうだな」

吉良の手は小さな生命を慈しむように緩やかに動いている。ディアボロは小さく頷くと、まだ平らな腹を撫でる吉良の手に自らの手を重ねた。
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海野ヒレ

Author:海野ヒレ
生き物大好き:海野ヒレ

pixiv: http://pixiv.me/umino-hire

twitter: https://twitter.com/umino_hire

身分:腐海の底で汚泥を啜る大学生。これでも医学生よ!

誕生日:8/4 吉田松陰先生と一緒(旧暦)

血液型:AB型

好きなゲーム:一生不動の一位はサガフロンティア2。異論は認める。

好きな漫画:ほんと色々。オリジナルBL、擬人化、アンソロも読みますモグモグおいしいおかわり!百合も逝ける。でも大まかに言うとギャグは大体好きみたいよ。

属性:自然発生型腐女子。小説メイン、イラスト少々にて活動中。拍手、コメントを貰うと喜びにくるいもだえるのだ。

特技:マイナーなジャンル・キャラ・CPばかりに熱烈な愛を送る。時々切ない。

好きなものごっちゃで詳しく:銀魂、サガフロ2、ダンガンロンパ、ギャグマンガ日和、+チック姉さん、ジョジョの奇妙な冒険(3部)、クロノクロス、ジルオール、ドリフターズ、モノノ怪、さらいや五葉、魔法少女まどか☆マギカ、モンハン、討鬼伝、アサシンクリード、フロンティアゲート、牧場物語、聖剣伝説LoM、FFXなど

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