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  • どっちもどっち(承太郎×ポルナレフ 花京院×ポルナレフ 3部)

    category:JOJO二次創作小説

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こんにちは。

今回は承太郎×ポルナレフと花京院×ポルナレフで、3部の旅の間のお話。花京院はこのままポルナレフを承太郎に寝取られてしまうのか否か・・・承太郎とポルナレフの決定的なシーンを見て動揺する花京院とか、すれ違いとか。今回はアヴドゥルさんが結構出てきます。『好きは伝染るの』『猫ひっかいた』の続きになります。単品でも読めないことはありませんが、前作を読んでおくことをおすすめします・・・。一応ポルナレフは花京院と付き合っている設定です。ビッチナレフ(承太郎と完全に浮気してる)なのでご注意を。
R-18ではないですが、そこはかとなく性行為を匂わせる描写があるのでご注意を。

本編終了後は補完の短編を書いていく予定です。『猫ひっかいた』で花京院がポルナレフを待っていた間の承ポル話や花京院とポルナレフが付き合うまでのお話、それぞれのデート時のお話、ポルナレフのしらないところで交わされていた花京院と承太郎のやりとりなど・・・。


↓それでは小説は追記に格納


どっちもどっち






承太郎と初めて決定的な関係を持ってしまってからというもの、ポルナレフは内心気が気ではなかった。
花京院も承太郎も、表向きは何事もなく過ごしているように見えるものの、それが逆にポルナレフには恐ろしく感じられる。―――あんなことをするべきではなかった。花京院に承太郎と自分の関係が知られてしまったら、という思いは夜毎ポルナレフを苛み、その度にポルナレフはもう承太郎とはこれきりにしようと誓う。しかし、いざ承太郎に手を引かれると途端にその気持ちも挫けてしまって、気が付けばポルナレフはいつもされるがままに流されてしまっていた。あの激情に駆られた獣のような目に捉われると、どういう訳か自分も激しい感情に衝き動かされるようにして従ってしまうのだ。はっきりとした身体の関係は一度しか持っていないが、それを抜きにしても、人目を忍んで口付けを交わすような行為を繰り返しているのは花京院からすれば立派な浮気になるだろう。花京院は聡い男であるから、ポルナレフもそう長くこの関係を隠し通せるものとは思っていない。恋人はすでに自分が承太郎と関係を持ってしまったことに気づいているのか、それともまだ―――。

「・・・聞いてるのか?ポルナレフ」
「えっ?ああー、と・・・すまねえ、もう一回言ってくれ」
「全く、しっかりしろ!さっきから何度目だ!」

地図を持ったアヴドゥルは助手席で腹を立てながらも、ポルナレフの為にもう一度道順を説明してくれた。ポルナレフは今度こそ運転に集中しようとハンドルを握り直す。溜息を吐いたアヴドゥルは一旦地図を畳んで膝の上に置くと、ふと何か思い立ったように、先ほどとは打って変わってポルナレフへ気遣うような目を向けた。

「そういえば、ここのところずっと車での移動続きだったな。疲れているのなら、どこかで休憩をとった方がいい」
「何でもねえよ・・・ちょっと考え事してただけだ」

ポルナレフはルームミラー越しに、ちらりと後部座席の方を窺った。起きているのか寝ているのか、三人とも目を閉じて座席に寄りかかっている。一見して眠っているようだが、以前狸寝入りに騙されたこともあって、どうにも確証がもてなかった。ポルナレフは薄く溜息を吐いて、正面に意識を戻す。

「悩みごとでもあるのか?めずらしいな」
「俺だって悩みぐらいあるっつーの!」

お前、俺のことなんだと思ってんだよ!
ポルナレフは冗談めかして答えたが、アヴドゥルはいやに真面目な顔でポルナレフの方を見た。

「悩むのもいいが、日中の活動に支障が出ない程度にしろよ。・・・自分だけでどうにもならない時は、誰かを頼るのも手だぞ」
「あんたを頼れって?」
「そうは言っていない。だが答えが出ないことを一人でずっと考えていても仕方がないだろう」
「・・・そうだな」

分かってるんだけどな。
道は緩やかなカーブに差し掛かっている。対向車はいない。ポルナレフはもう一度ルームミラーを覗き込もうとしてやめた。―――答えが出ないことを考えるのは無駄だ。ポルナレフはゆっくりとハンドルを回してカーブを抜けた。

その夜、一行は小さな町のホテルで一夜を明かすことになった。
ホテルは町の中でも少し小高い場所に位置しており、周囲には店や民家がほとんどない。もともと人口が少ない上に観光客が来るような町ではないためか、ホテルも二階建てのこじんまりとしたものだった。一行がホテルのロビーに入ると、受付にいた男がジョセフに近寄ってきて何やら話を始める。話が終わると、ジョセフは直ぐにポルナレフたちへ解散の指示を出した。

「兼ねてから連絡を取っておった財団の人間がここへ到着しているらしい。すまんがわしは少し話があるから、お前さんたちはいつも通り部屋割りを決めて、今夜はもう休んでくれ。二人部屋が二つじゃ。いいな?」

言い終わるなり、ジョセフは急ぎ足で受付の男と共にホテルの奥の部屋へ消える。くじ引きの結果、その日は承太郎と花京院、ポルナレフとアヴドゥルがそれぞれ相部屋となった。ジョセフは先ほどの私用のため、今日は一人部屋を取っている。ホテルまでの道すがら夕食は済ませており、そこで翌日の旅程の打ち合わせもしてあるので、あとはもう各自部屋でシャワーを浴びて眠るだけだった。
二階にある二人部屋は隣り合っていたため、四人揃って荷物を持ち、階段を上る。廊下で挨拶を交わした後、ポルナレフはアヴドゥルと共に割り振られた部屋に入った。部屋はそれほど広くないが、掃除が行き届いていて、ベッドの他にも冷蔵庫やテレビ程度の設備は整っている。すぐに仕度をする気になれず、ポルナレフは自らシャワーの優先権をアヴドゥルへ譲った。

「出たぞ」
「んー・・・」
「早く入れ」

アヴドゥルが先にシャワーを浴びている間、ポルナレフは服のままベッドへ寝転んで昼間の考え事の続きをしていたのだが、いつの間にかうとうとと微睡んでいたらしい。肩を揺すられてようやく意識が覚醒してきたポルナレフは、ぼんやりと目を擦って何度も瞬きをする。頭を振ってベッドに起き上がると、アヴドゥルは寝間着姿でグラスに水を注いでいた。

「どうも湯の出方が悪いな」

アヴドゥルが肩に掛かったタオルで下ろした髪の水気を拭いながらぼやいた。アヴドゥルがこういう不満を言うことは少なく、どちらかというとポルナレフが文句を言ってアヴドゥルがそれを諌めることの方が多い。ポルナレフは少し意外な気がして、風呂の用意をしていた手を止めた。

「アヴドゥルもそういうこと言うんだな」
「私だって人間だ。不満もあるし愚痴も言うさ」
「そっか。まあ・・・そうだよな」

じゃあ俺も風呂入るから、とポルナレフは着替えを持ってベッドから立ち上がる。
あまり人が来ないホテルだと言っていた割に、バスルームは随分と手入れが行き届いていた。気にしていたトイレも綺麗で、洗面台の鏡には曇り一つない。肝心のシャワーは温度調節に苦戦したものの、アヴドゥルが文句を言っていたほど水量に不満はなかった。少し湯がぬるい気がしたが、面倒になったポルナレフは妥協してそのままシャワーを浴びることにする。
髪を洗いながら、ポルナレフはぼんやりと今日のことを思い出した。―――考えたって分からないことで悩んでても無駄、か・・・。シャンプーの泡が目に入らないように、上を向いたまま泡を立てる。ホテルの天井には染み一つない。―――今日は承太郎と花京院が同室だ。隣り合った部屋だったので廊下で分かれたが、その時にはいつもと違った様子はなかった。あの二人も、自分とアヴドゥルのように交代でシャワーを浴びている頃だろうか・・・。

「はあ・・・」

また自分が詮無いことを考え始めたのに気づいて、ポルナレフは溜息を吐いた。シャワーを取り上げ、ぬるい湯で泡を流していく。もうそろそろいいか、とシャワーを戻しかけたところで先ほどまでぬるかった湯が急に熱湯に変わった。

「うわッなんだ、あっちちちち!!」

ポルナレフは悲鳴を上げてなんとか湯を止めた。水を滴らせる濡れた髪を掻き上げ、シャワーのコックを確認する。見ると温度設定は変わっていないのに、どういう訳か急に熱湯が出てきたようだ。

「なんなんだよ・・・ったくよォー」

ついてねえよなあ、と呟くと、ポルナレフはもう一度コックを捻ってみる。出てきた湯を恐る恐る手に掛けてみたが、今度はやはりぬるい湯が出ていた。ポルナレフはどうにも腑に落ちなかったが、また熱湯が出て来ない内にと手早く風呂を済ませる。
服を着てバスルームを出ると、アヴドゥルがベッドの上へ座って何やら難しそうな本を読んでいた。ポルナレフに気づくとアヴドゥルは顔を上げて本を閉じる。

「さっき何か声が聞こえたが」
「ああ・・・なんかシャワーの温度が急に変わりやがってよ、火傷するかと思ったぜ」
「それは災難だったな」
「つっても、湯の量は普通だったけどな」
「そうか?ならシャワーが壊れているのかもしれん。明日にでもホテルの従業員に知らせておこう」
「綺麗なホテルなのに、惜しいもんだ」

他愛のない話をしながら、ポルナレフは冷蔵庫を開けた。飲みかけのミネラルウォーターのボトルを取り出して口を付ける。アヴドゥルは窓を開けて空を見上げていた。薄い生地のカーテンがふわふわと夜風に靡いている。

「バルコニーへ出られるようになっているな」
「何するんだ?」
「星を見る」
「ああ、あんた占星術師だったっけ・・・」

毎日見ないと腕が鈍る、というアヴドゥルの後ろに続いて、ポルナレフもバルコニーへ出た。ふと前にアヴドゥルが言っていたことを思い出したのだ。

「なあ、アヴドゥル」
「なんだ?」

ポルナレフはアヴドゥルの隣に並んで、バルコニーの塀に凭れた。蒸し暑い夜闇がホテル一帯を覆っている。見下ろした景色にホテル以外の灯りは殆ど見当たらないが、その分星がよく見えた。

「前に言ってたよな。俺のこと、『揉め事に巻き込まれる予兆』が見えるって」
「ああ・・・あの前の晩に星を見たが、確かにそう出ていた」
「もう一回、占ってみてくれよ。俺のこと」
「・・・今か?」

アヴドゥルは黙ったまま空を見上げたが、すぐにポルナレフの方を向き直った。

「実は、お前がそのことを今日あたり言い出すんじゃあないかと思っていた」
「な、なんで?」

ポルナレフは一瞬ぽかんとしてアヴドゥルを見返す。アヴドゥルは澄ました顔でもう一度空を見上げた。

「大体のことは、星が教えてくれる」
「ふーん・・・」

なんか分からねえけど、とポルナレフも真似をして空を見上げる。ポルナレフには当然星占いなど分からないが、それでも綺麗な星を見ていると心が落ち着くのを感じた。静かな夜の世界で、虫の音だけが響いている。―――花京院と承太郎はもう寝ただろうか。ふとバルコニーから隣の部屋を見ると、まだ電気がついていた。カーテンが閉められているせいで部屋の中までは良く見えなかったが、窓越しにも人影が動くのがぼんやりと見える。・・・まだ起きているんだな。ポルナレフは寄りかかった塀に頬杖をついて、目の前に広がる真っ暗な世界を見つめた。視界の端で、まだ湿り気を帯びた自分の髪が夜の生温い風に揺れている。

「・・・ふむ、大体分かったぞ」

アヴドゥルの声で唐突に現実に引き戻されたポルナレフは、慌てて凭れていた塀から身を起こした。

「で、なんて?」
「お前は今揉め事の渦中にいる。全てのことに、誠意を持って対応しろ」
「誠意・・・」
「そしてそれ以上に、本当の気持ちと向き合うことが大切だ。自分に対して正直に生きることが、解決への鍵となるだろう」
「ほんとにそう出てたのか?星に?」
「・・・私の腕を疑うのか?」

アヴドゥルが片方の眉を吊り上げる。そういうわけじゃねーけど、とポルナレフは口ごもると、再び塀に凭れた。

「なんか如何にもあんたが言いそうだなと思ってよ。なんつーか、説教くさい感じが・・・」
「星の告げていることを私が意訳しているんだから、多少そうなっても仕方ないだろう」

お告げねえ・・・とポルナレフは下ろした髪を掻き上げる。濡れた髪はパラパラと音を立てて額や首筋に落ちていった。

「しかしお前が急に占いのことを言い出すとはな。お前は良い事しか信じない性質じゃあなかったのか?」
「ああ、そーだよ。今でもそうだぜ。・・・ただちょっと、気になっただけだ」
「・・・花京院と何かあったのか?」
「はァ!?な、おっ、おま・・・」

まさか花京院もアヴドゥルに何か相談していたのか?
思わず尋ねようとして、ポルナレフはなんとか思いとどまった。墓穴を掘るようなことは言うまいとポルナレフは口を噤む。アヴドゥルはというと、特にポルナレフの様子を気にする風もなく、穏やかな顔で空を見上げている。

「花京院も歳の割りにはしっかりしているが、何分多感な時期だ。『不純な行為』は慎むべきだが、精神的な支えはあった方がいいだろう。花京院にも・・・それから、お前にもだ」

こんな旅だからな、と笑うアヴドゥルを、ポルナレフはぽかんと口を開けて呆けたような顔で見ていた。いつものアヴドゥルではとても言いそうにない言葉だ。―――いや、それ以前に・・・アヴドゥルは自分と花京院の関係を知っていたのか?一体いつから?あの説教を受けた日の後なのは間違いないが・・・だとしたら誰が・・・。
色々と聞きたいことだらけだったが、ポルナレフは結局何も言い出すことが出来ずに口を閉じる。俯きがちに考え込んでいたポルナレフが余程深刻な顔をしていたのか、今度はアヴドゥルが心配そうにこちらを覗き込んできた。

「どうした?まだ何かあるのか?」
「いや・・・」

ポルナレフは首を振ると、軽く息を吸って顔を上げた。

「ありがとうな、アヴドゥル。占いとか・・・話、聞いてくれて」

結果はどうであれ、アヴドゥルは純粋な好意で助言をくれた訳だから感謝すべきだろう。サンキュ、と言って笑ってみせると、アヴドゥルは安心したように頷いた。その時不意に窓が開く音がして、ポルナレフとアヴドゥルは揃って隣の部屋のバルコニーを振り返る。

「やっぱりポルナレフか!」

出て来たのは花京院だった。今の今まで話題にしていた分、ポルナレフは少し気まずい思いで花京院に応える。

「な、なんだよ・・・」
「声がこっちの部屋まで聞こえて来たぞ!他のお客さんに迷惑だろう・・・ああ、アヴドゥルさんもいたんですね」

アヴドゥルに気づいた花京院は、きっちり窓を閉じてからバルコニーの端まで寄ってくると、いつものように行儀よく挨拶をする。近づいてきた花京院は向こうの部屋の光を背にしているので、表情は影になって良く分からないが、どうやら別段怒っているという訳でもないらしい。アヴドゥルも穏やかな声で挨拶を返した。

「二人して外に出て、何かあったんですか?」
「いや、何もないさ。星が綺麗だから外に出ていたんだ」

あまりサボると本業の方の腕も鈍るからな、とアヴドゥルが笑う。

「・・・ポルナレフも?」

訝しげな顔をした花京院に見つめられて、ポルナレフの額にはじわりと冷や汗が滲んだ。

「あ、ああ!そうそう!最近星なんてゆっくり見てなかったからよ~、折角だからたまには一緒に、なァ~んて・・・な!」
「・・・ああ」

ポルナレフが助けを求めるように振り返ると、アヴドゥルは一瞬呆れた顔をしたが、すぐに調子を合わせて頷いてくれた。

「ふうん・・・」

花京院はまだ怪しむような目でポルナレフを見ていたが、何やら部屋の奥の人影から声を掛けられたことで気が逸れたらしく、急に窓の方を振り返って首を傾げた。

「承太郎かな」
「用があるんじゃないか?」
「多分お風呂だと思いますけど・・・ちょっと見てきます」

花京院はこちらに断ってから窓の方へ戻ろうとしたが、花京院が歩き出す前に窓が開いて、部屋の中から承太郎が現れた。風呂上りなのか、いつもの学ランと帽子を脱いで、ラフな格好に着替えている。首にはタオルが掛かっていた。

「おい、風呂空いたぞ」
「ああ、すぐ入るよ。バルコニーにアヴドゥルさんとポルナレフがいたから、少し喋ってたんだ」
「・・・そうか」

二人がいつも通りに接しているのを、ポルナレフはどこか安心したような気持ちで眺めた。考え込む内に、自分がどんどん悪い想像へ引きずられていただけなのかもしれない・・・。そんな気を起こさせるほど二人のやりとりは自然で、以前と何一つ変わっていないように見えた。
しかし胸を撫で下ろしかけた直後、ポルナレフは凍りついた。―――承太郎と目が合ってしまった。いや、それだけなら良い。その目がまた妙な色に光ったのだ。こんな暗闇だというのに、緑の光がはっきりと自分を捉えているのが分かる。あの日と同じ色の目―――。

「う・・・」

心臓が嫌な跳ね方をして、ポルナレフは思わず表情を強張らせた。目が合ったはずの承太郎は顔色一つ変えていない。ポルナレフはじっとりと汗ばんだ額に髪が張り付くのを感じながら、承太郎から逃れるように視線を落とした。

「・・・ポルナレフ?」

部屋に戻りかけていた花京院は、また怪訝な顔でこちらを見返している。ポルナレフはできるだけいつも通り振る舞おうとして、努めて明るい声を出した。

「なんでもねえよ・・・いいからお前は早く風呂入って寝ろって」
「言われなくてもそうするよ。おやすみ、二人とも」

また明日、と言い残して花京院は部屋へ戻っていった。

「それじゃあ私達も部屋へ戻ろう。明日も早いからな。おやすみ、承太郎」

早く寝るんだぞ、と言ってさっさと部屋へ戻ろうとするアヴドゥルの後を追いながら、ポルナレフは承太郎の顔も見ずに掠れた声でおやすみとだけ挨拶をする。

「・・・ああ。明日な」

承太郎の返事を背中で聞いて、流石に今のは悪かったかなとポルナレフは少しだけ良心が痛んだ。心の中で謝って、部屋へ入る直前、一瞬だけ承太郎の方を振り返る。

「え、」

カチリ、と音を立てて視線が重なった。承太郎もまた、こちらを振り返っていたのだ。閃光のようにぎらりと緑の光が反射して、身体の底がかっと熱くなる。息を呑んだポルナレフは慌てて部屋に逃げ込み、震える手で乱暴に窓を閉める。

「なんだ、何かあったのか?」

アヴドゥルに尋ねられても、ポルナレフには首を振ることしか出来なかった。

「なんでも、ない・・・」
「なんでもない?顔色が悪いぞ」
「・・・ちょっと顔洗ってくる」

ポルナレフは覚束ない足取りでバスルームへ入ると、扉を閉めるなり、そのまま扉へ寄りかかるようにして身体を支えた。先ほどのおかしな感覚が拭えず、自分の身体を抱きしめるように両腕を回す。先ほどの承太郎の目を思い出すたびにぞわぞわと鳥肌が立った。あの妙な光。あれはどこから来たものなのか?顔は影になって見えないはずなのに、目だけがあんな光り方をするなんて・・・。ポルナレフには、あの光が承太郎自身から発せられる欲情そのものに思えた。射抜かれるだけで、身体が焦げ付くように熱くなる。
しばらくそのままじっとしていたが、気持ちを切り替えるためにポルナレフはふらふらと洗面台に向かった。蛇口をひねって水を出し、手で掬ってはバシャバシャと顔に掛ける。徐々に落ち着いてきた頭に、先ほどのアヴドゥルの言葉が浮かんだ。『自分の気持ちに素直になることが大切だ』ならば一体自分はどうしたら良いのだろうか。ポルナレフは水を止めて顔を上げた。―――もう引き返せないところまで来てしまっているのではないのか。

「俺は、どうしたいんだ?」

鏡を覗き込むと、濡れたままの頬には幾筋もの滴が光っていた。泣いてるみてえだな、と心の中で呟いてポルナレフは洗面台にあったタオルを掴む。顔を拭こうとして、ふと考えた。この涙は一体誰のものだ?今目に見えている通り、自分のものだろうか?あるいはもっと別の―――。

「馬鹿馬鹿しい」

んなこと考えちまうのは、疲れてる証拠だぜ。ポルナレフは自分に言い聞かせる。さっさと寝ちまおう。何も考えないようにするには寝るのが一番だ・・・。沈み始めた思考を振り切るように、ポルナレフはタオルで乱暴に顔を拭った。


翌朝、ポルナレフは首筋に重怠い違和感を感じながら目を覚ました。
いつもより少し早い時間に起きたせいだろう、とやけに頭が重いのを我慢しながら朝食の席に着いたものの、どうにも良くなる気配がない。ホテルを出る時、違和感は既にはっきりとした頭痛へと変わっていた。今日もポルナレフが車を運転をする予定だったが、この体調ではそれも難しいだろう。出発前の打ち合わせで運転手はジョセフになり、ポルナレフは後部座席で休むことが決まった。

「今日はわしが運転しよう」
「すまねえ、みんな・・・」
「なァ~に、気にするな!ずっと運転を任せておったからな、疲れが溜まっとるんじゃろう。お前さんは休んでおけ。アヴドゥル、道案内は頼んだぞ」

全員が車に乗り込むと、直ぐに車は出発する。ポルナレフは運転席の真後ろに座って、頭痛を少しでも和らげようとこめかみを擦っていた。助手席側の窓際に座った承太郎は、出発の直後から帽子の鍔を引き下げて目を閉じている。真ん中に座った花京院はしばらく黙ったまま正面に広がる景色を見ていたが、いつになく無口なポルナレフを心配したのか声を掛けて来た。

「珍しく静かだね」
「『珍しく』ってのは余計だろ・・・」
「そんなに痛むのかい?」
「なんつーか・・・頭も痛いんだが、それより首筋と肩が重くてしょうがねえ」

ポルナレフは昨日ほど気まずさを感じることなく花京院と接することができた。頭痛に気を取られているというのもあるだろうが、それ以上に花京院の気遣いはどこか落ち着くものを感じさせる。

「首や肩が凝ると頭痛が起きるって聞いたことがあるよ。ずっと同じ姿勢で運転してたから、血行が悪くなってるのかもね」
「あー、かもな・・・」

花京院の言葉に、ポルナレフは首筋を押しながら頷く。肩も少し回してみたが、連日の運転からくる凝りがそう簡単に解れる訳もなく、肩の筋と関節が呻くように軋んだだけだった。

「揉んであげようか?少しは楽になるかもしれないよ」
「花京院が?」
「こういうのって自分でやるより人にして貰ったほうがいいだろ」
「そりゃあ、そうだけどよ・・・」

いいからちょっとじっとしてなよ、と言って花京院はポルナレフの首筋に指先を置いた。ひんやりとした細い指がポルナレフの首筋をするすると撫でて、露出した肩の上まで滑るように動く。

「凝ってるからって、あんまり強く押したりしない方が良いんだ。こうやって、さする感じで・・・」
「ふーん」

ほんと物知りだな。
独り言のように呟くと、ポルナレフは花京院の手の動きに身を任せて目を閉じる。

「アヴドゥルさんやジョースターさんには負けるよ」

花京院は指を揃えてポルナレフの額に添え、熱を持った眉間からこめかみにかけてをやんわりと押した。体温の低い指が心地いい。

「ポルナレフ、こっちに背中向けて」
「ん?」
「逆の方の肩ができないだろ」
「あー・・・」

ポルナレフが身体を捻ると、花京院は反対側の肩に腕を伸ばす。同じように指先で首筋から肩を解し、仕上げに両方の肩を背中側から円を描くようにさすった。

「どうかな・・・ちょっとはマシになったかい?」
「ブラボー!大分肩が軽くなった気がするぜ!」

心なしか頭痛も和らいだようだ。肩を回してみても、先ほどの重苦しい軋みはなくなっている。

「よかった。役に立てたみたいだね」
「ああ、サンキュー」

ここが誰も見ていない部屋ならお礼のキスでもしていたのに。ポルナレフは少し残念に思いながら、運転席に身を乗り出した。

「ジョースターさん、」
「なんじゃ、ポルナレフ」
「どうも良くなってきたみたいなんで、午後から運転代わりますぜ」
「ふーむ、そうか?」

首を傾げるジョセフの隣からアヴドゥルが口を挟む。

「ポルナレフ、油断は禁物だぞ」
「そうじゃな、やはり今日は大事を取って休んでおく方がいいじゃろう」

アヴドゥルの言葉にジョセフも同意した。

「まだまだわしも若いからな、一日やそこらの運転ぐらいなんともないわい。安心して座っとれ!」

結局、ポルナレフはジョセフの好意に甘える形で再び後部座席に収まる。そのまま身体の力を抜いて座席に凭れると、規則正しい車の揺れで徐々に睡魔が襲ってきた。ふあ、とポルナレフが思わず大きなあくびをすると、助手席側の窓から外を見ていた花京院がこちらを振り向く。

「寝てなよ。着いたら起こすから」
「・・・そーする」

花京院の言葉に頷きながら半分落ちかかった目蓋を閉じると、ポルナレフはそのまま足を引きずられるように深い眠りの中へと落ちていった。

次にポルナレフが目を開けた時には、すでに一行は次の街へ到着していた。寝起きのぼんやりした頭で辺りを見回していると、隣に座っている花京院がこちらに気づいて声を掛けてくる。

「ああ、起きたんだ・・・もう街に着いたよ。今日はここで宿を取ることになったんだ」
「ここでェ?昼飯もまだじゃねーか・・・今何時だ?」
「2時過ぎかな。昼ご飯は今からだよ」

花京院によると、今日通るはずだった道が封鎖されていたせいで回り道をすることになったらしい。その影響で一行は昼の休憩を取る予定だった街へ立ち寄ることが出来ず、昼食を抜くはめになったようだ。取りあえず先へ進む内に見つけたこの街で昼食を取り、今後の旅程を練り直す必要があるが、アヴドゥルが言うには地図を見る限りこのままいくと次の街までかなり距離があるという。

「詳しいことはまだ分からないけど、ジョースターさんたちは明日一日かけて次の街を目指した方が良いんじゃないかって」
「そうか・・・」

自分が眠っている間に何やら色々あったらしい。ポルナレフはまだ少しだけ痛む頭を振って意識を覚醒させると、窓の外の景色を眺めた。そこそこ大きな街らしく、道の脇には見慣れない店が立ち並んでいる。賑やかな歩道には露店がちらほらと出ており、人口もそれなりにあるようだ。
それから間もなくして、一行は大通りにあるホテルで宿を取った。街の中心部にあるというのに、一際目立つ大きなホテルには広い中庭が付いている。生憎二つしか部屋が取れず、ポルナレフは花京院と同室になり、残りのメンバーは三人で一部屋へ泊まることになった。

「やはりこの先は・・・」
「ふーむ、今日中に次の街へ行くのは厳しそうじゃな。もう一度国境までのルートを練って、仕切り直しとするか。焦りは禁物じゃ」

ホテルの一階にある食堂で昼食をとりながら話し合った結果、やはり明日の朝ここを出発した方が良いだろうということに決まる。年長組が次の国境までの旅程を練り直す間、若者三人は翌朝まで自由行動をとることになった。

「ここが大きな街で助かったわい。みんな足りないものがあったら今のうちに買っておくんじゃぞ」

それから全員体調は万全にしておくように、と言って食堂を出たジョセフは、アヴドゥルと共に再度ルートの確認をするため、自分たちの部屋へ早々に引き上げていく。

「で、お前らどーすんの?」

昼食の時はややぎこちなかったものの、普段通り振る舞う承太郎にポルナレフも緊張を解き、食堂を出る頃には以前と同じように接することが出来るようになっていた。ポルナレフが承太郎と花京院の顔を交互に見ると、花京院が先に口を開く。

「僕と承太郎は街の方を見て来るよ。ちょっと買いたい物もあるし・・・ああ、ポルナレフは部屋で休んでなよ。さっきジョースターさんも体調を整えておけって言ってただろう」
「なっ・・・じゃあ晩飯どうすんだよ!」
「さっき昼を食べたばかりなのに、もう夜の心配か?呆れたやつだな・・・それぐらい買ってくるよ」

干した肉の入ってないやつだろう?と花京院はポルナレフを呆れた顔で見返している。そこで今まで黙っていた承太郎も花京院に同調した。

「ポルナレフ、てめーは部屋にいろ。たまたまこの街に寄ったが・・・道の封鎖自体、敵の罠かもしれねえ」

いつ敵に見つかって襲われるか分からないと言う承太郎に、ポルナレフはとうとう折れて溜息を吐く。

「・・・分かったよ、部屋に居りゃーいいんだろ。そのかわり、お前らちゃんと晩飯買って来いよ!勝手に自分たちだけ美味いもん食ってたら許さねーからな!」
「やれやれ、病人のくせにやかましいやつだ」

承太郎は帽子の鍔を掴んで引き下げた。その仕草にポルナレフは声を上げて笑う。

「ま、そういうわけで頼んだぜ!じゃーな、また後で」

ポルナレフは片手を挙げて挨拶すると、二人には背を向けてさっさとエレベーターの方へ歩き出した。ポルナレフの後ろで承太郎と花京院は二言三言やりとりをしているようだったが、すぐに二人の足音はホテルの外へ向かって遠ざかっていく。ポルナレフは振り返ることもなく、直ぐに降りてきたエレベーターへ乗り込んだ。

「よお、アヴドゥル」

エレベーターから降りて部屋へ向かう途中、ポルナレフは廊下でアヴドゥルに遭遇した。アヴドゥルは何やら片手に袋をぶら下げている。ポルナレフは首を傾げながらアヴドゥルに近付いた。―――てっきり部屋でジョセフと話をしているものと思ったが、買い物にでも行っていたのだろうか?

「なにお前、買い物行ってたの?」
「ポルナレフか。それが冷蔵庫の調子が悪くてな。フロントに苦情を入れたら、自分で製氷機から氷を持って行けと言われた」

ポルナレフの視線に気づいたのか、アヴドゥルは肩をすくめて袋を持ち上げて見せる。良く見ると袋の中にはブロック状の氷が詰まっていた。

「製氷機?」
「エレベーターの近くにあるんだ。まあ応急処置にもならんがな」

言いながらアヴドゥルは渋い顔をしている。

「シャワーの次は冷蔵庫かよ!ほんとついてねえなあ~」
「我ながらそう思っていたところだ・・・おかげで食事の前に入れて置いた飲み物がもっと温くなった。ところで、お前の方こそどうした。承太郎や花京院たちと一緒じゃあないのか?」

珍しいな、というアヴドゥルにポルナレフは苦笑いを返した。

「花京院と承太郎が休んどけってうるさいんだよ・・・」
「随分と過保護なことだ」
「妙な言い方するなって」

今度はポルナレフは顔を顰めてみせたが、アヴドゥルは涼しい顔をしている。むしろポルナレフをからかうのを楽しんでいるようだった。

「いいじゃあないか、たまには甘えておけ」
「あいつらより俺のが年上だぜ?」
「・・・中身の方はどうだかな」
「てめッ、言ったな・・・!」

ポルナレフが拳を突き出してみせると、アヴドゥルはどこか笑いを滲ませた顔で宥めるようにポルナレフの肩を叩く。

「もう私は部屋に戻らないと。ジョースターさんを待たせているんでな」
「あっ、おい!」

それじゃあ、と言うとアヴドゥルは足早に部屋へ引き上げていった。誰もいない廊下にはポルナレフだけが残されている。どうも遊ばれたような気がする・・・。ポルナレフは溜息を吐いて頭を掻くと、ようやく自分の部屋へ向かって歩き出した。

「つっても暇だよな~。まだ4時じゃねーか・・・」

部屋の鍵を開けて入ったポルナレフは、誰に言うともなく呟いてベッドへ寝転んだ。今になって物思いに耽る時間が出来たが、考え事はもうするまいと決めたばかりである。
とはいえポルナレフの脳裏には承太郎と花京院のことばかりが浮かんでは消えた。昨日から二人だけで行動する時間が増えているようだが、承太郎は花京院に対して気まずい思いを抱いたりはしないのだろうか。

「まあ、承太郎だしな・・・」

しなさそうだよなあ、あいつ。
少しばかり失礼なことを考えて、ポルナレフはごろりと寝返りをうつ。シーツが肌を滑る感触に、ふと承太郎が自分へ触れた日のことを思い出した。ジョセフの部屋まで荷物を運んで、そこで自分は・・・。
ポルナレフは横向きに寝転がったまま、膝を抱え込むようにして身体を丸める。意識した訳ではないのに、あの日の感覚が肌に蘇った。あの時どういう流れでそうなったのか、ポルナレフにはあまり記憶がない。ただ汗ばんだ承太郎の熱い身体と、押しつけられたシーツのひんやりとした感触がどこか不安定だったことは覚えている。触れられた場所はどこもかしこも熱くて、承太郎のぎらついた目から逃れることが出来なかった。・・・今でも。

「自分の気持ちに正直になれっつってもな・・・それが分かったら苦労しねーっての」

―――そういえば初めてキスをした日、承太郎は自分が花京院と何をしようが気にしないと言っていた。あれは本心から出た言葉なのか?
別の日の話だが、花京院は逆に『二番手で良い』などという男の言葉を信じてはいけないと言っていたような気がする。ポルナレフにはどちらも本当のことを言っているように思えた。自分は一体承太郎の何に縛られているのだろうか。考えても考えても答えは分からなかった。

「・・・寝るか」

ポルナレフは丸めていた身体を大の字に広げると、天井を仰いで目を閉じた。

「ポルナレフ、」
「ん、ん・・・」

どれぐらい時間が経ったのだろうか。急に自分を呼ぶ声が聞こえて、ポルナレフはうっすらと目を開けた。部屋の明かりが酷く眩しい。ポルナレフは光から逃れるように再び目を閉じて寝返りを打った。

「起きろってば!ポルナレフ!」
「・・・あ?」

乱暴に肩を揺すられて、今度こそポルナレフは目を開ける。ポルナレフを起こしたのは花京院だった。

「また寝てたのか?夜眠れなくなっても知らないぞ」
「大丈夫だって・・・」

ポルナレフは頭を掻いてベッドの上に起き上がった。確かに花京院の言う通り、今日は居眠りばかりしている気がする。ベッド脇の時計を見れば、すでに時刻は八時を回っていた。

「ご飯買ってきたよ。頭痛は良くなった?」
「ん?ああ・・・治ってる、みてーだ」

自分でも言われるまで思い出さなかったほど、朝から続いていた頭痛は嘘のように消えている。

「そう、よかった。部屋へ戻るまでにジョースターさんと会ったんだけど、明日は君に運転を任せるって言ってたから」

花京院はポルナレフのために買ってきた食事をテーブルに出すと、自分はシャワーを浴びるための準備を始めた。

「君が食べてる間に、シャワー浴びて来るよ」
「お前もう飯食ったの?」

テーブルの上の食事は一人分しかない。ポルナレフは包みを取り上げて、広げながら花京院に尋ねた。

「承太郎と外で食べて来た」
「ちぇッ、どうせ俺抜きで良いもん食ったんだろ」
「うん」
「・・・・・・」
「冗談だよ。それ、僕たちが食事した店で包んでもらったんだ」

花京院はこちらに背を向けたまま、しゃがんで荷物を整理している。早く食べなよ、と言う花京院の声が少し笑っていた。

「ポルナレフ、」
「ん?」

不意に花京院が振り返ったので、ポルナレフは食事を頬張りながら花京院の方へ顔を向ける。

「今日は、しないでおこうか」
「えっ・・・なんで?」
「だって君、身体を休めないといけないだろ」

どうやら花京院はポルナレフの身体を気遣っているらしい。一緒の部屋になったのに一度も身体を重ねることなく夜を明かすのは、付き合ってからこれが初めてかもしれなかった。

「別にそこまで気にしなくても・・・」
「するよ。君は明日も運転だし」

アヴドゥルの『過保護』という言葉は案外当たってるのかも知れないな、とポルナレフは心の中で呟く。

「分かった、お前がそれで良いならそうする。・・・けどホントに良いのか?」
「うーん・・・じゃあ、しないけど一緒に寝ようか。ここのベッド広いから、落ちる心配もないし」

ポルナレフはその言葉に耳を疑った。

「『しないけど一緒に寝る』って・・・お前それ、できんの?」
「人を獣みたいに言わないで欲しいね」

前は結局したくせに・・・。
小声で呟かれたポルナレフのぼやきを、花京院は耳聡く聞きつける。

「聞こえてるよ。前っていつ?」
「アヴドゥルに説教された時だよ」
「・・・ああ、あの時のこと?」

仕度が済んだのか、花京院は着替えを持って立ち上がった。そのままバスルームの中に入り、扉を閉めずに喋り続ける。タイルで反響した声に混ざって、服を脱ぐような音が聞こえた。

「あの時と今は別だろう。ああいうのは、禁止されるほどしたくなるっていうか・・・とにかく今日は本当にしないよ」
「へーへー・・・まあ信じとくぜ」

ポルナレフは話半分に聞き流して、目の前の食事を掻っ込むことに集中する。視界の隅で、裸の腕がバスルームの扉の取っ手を掴むのが見えた。

「信じてないだろう?まあ良いよ。今日できない代わりに、次は手加減なしだからね」
「んぐ、ゲホッ・・・おい!」

花京院の言葉にポルナレフは思わず喉を詰まらせる。慌ててバスルームを振り返ったが、もうすでに閉じられた扉からはシャワーの音だけが響いていた。

ポルナレフは食事を終えた後、花京院と入れ替わりでシャワーを浴びた。適当に汗を流してバスルームから出ると、花京院が膝をついて床に置かれた冷蔵庫を覗き込んでいるのが目に入る。

「・・・何してんの、お前」

ポルナレフは濡れた髪をタオルで拭いながら花京院に近づいた。花京院の隣に屈んで同じく冷蔵庫を覗き込むが、特に変わった様子はない。

「実は冷蔵庫のコンセント差し忘れてたみたいで・・・昼に入れておいた飲み物が全然冷えてないんだ」
「マジかよ、気づかなかったぜ」

しょうがないか、とポルナレフは水の入ったボトルを取り出して一口飲んでみたが、案の定ぬるい水は風呂上りの乾いた喉に鬱陶しく感じる。

「うーん、やっぱりぬるいな・・・」
「さっきコンセントを差したばかりだから、もう少し待たないと無理だよ」

しばらくの間何か良い方法はないかと考えて、ポルナレフはふとアヴドゥルに会った時のことを思い出した。

「・・・あ、そうだ!」
「何?」
「氷だよ、氷!エレベーターのとこに製氷機があるんだった」

あれをグラスに入れたら少しはマシになるだろう。細かい場所は分からないが、とにかく製氷機はエレベーターの近くに置いてある筈だ。ちょっと行ってくる、と言ってポルナレフは部屋に備え付けられていたグラスを取り上げると、急ぎ足で部屋を出た。静かな廊下をひたすらエレベーターの方へ向かって歩いていく。

「・・・あそこか?」

エレベーターを挟んで反対側、一直線に伸びた廊下の中で、そこだけ壁が途切れている所を見つけた。どうやらそこに壁をくり抜いてつくったような空間があるようだ。それなりに奥行があるらしく、離れたところからではそこに何があるのかさっぱり分からない。近づいて覗き込むと、思っていた通り壁際に製氷機が設置してある。ご丁寧に『ご自由にお取りください』の張り紙まであった。

「えーっと、これで挟めばいいのか?」

ポルナレフは近くに掛けられていた金属製のトングを取り上げて、製氷機の透明な扉を開けた。同時に、ひやりとした冷気が外へ漏れだす。グラスに氷を数個放り込んだところで、ポルナレフは後ろから誰かが近寄ってくる気配を感じて振り返った。

「・・・なんだ、承太郎か」

目の前にいたのは同じく風呂上りの格好をした承太郎だった。承太郎も手にグラスを持っている。ポルナレフは氷の入った自分のグラスを持ち上げて見せた。

「お前も氷取りに来たのか?」

お前のとこの冷蔵庫壊れてるもんな、と言うと承太郎は眉間に皺を寄せる。

「なんでてめーがそれを知ってんだ」
「アヴドゥルから聞いたぜ。フロントに苦情入れたら、氷でなんとかしろって言われたってな」
「ああ。だからこうしてしたくもねー苦労をしてるとこだぜ」

めんどくせえ、と言いながら承太郎はポルナレフの手からトングを取り上げる。そのまま開きっぱなしになっていた製氷機から氷を数個グラスに放り込むと、隣にある棚にグラスを置いて扉を閉めた。

「おい、ポルナレフ」

元へ戻そうとして場所が分からなかったのか、承太郎はトングを持ったままポルナレフを振り返った。

「ああ、それな。ここにあったんだぜ」

ポルナレフは承太郎の後ろから手を伸ばしてトングを受け取ると、最初に掛かっていたところへ元通り引っかける。腕を引っ込めようとしたところで不意に承太郎がポルナレフの手を掴んだ。あっと思う間もなくその手を強く引かれ、バランスを崩したポルナレフは製氷機へ押しつけられる。強打した背骨に鋭い痛みが走った。

「いっ、てェ・・・何すんだよ!」
「静かにしろ。あんまり騒ぐと誰か来るぜ」

突然のことに思考が追い付かない。ポルナレフは混乱した頭でなんとか承太郎の腕から逃れようと身を捩った。

「なあ、どうしたんだよ急に!離せって!」
「・・・苦労ついでだ」
「はあ?何言って、」
「静かにしろって言っただろーが」

承太郎の腕はポルナレフの身体を完全に拘束している。スタンドを出しても敵わないことを知っているポルナレフは、唇を噛んで抵抗をやめた。承太郎と目を合わせるのが恐ろしくて、首を反らせたままぎゅっと目を閉じる。やがてこちらが大人しくなったことに気づいたのか、承太郎の手が僅かに緩んだ。

「うっ・・・」

この隙に抜け出そう、と身体を製氷機から起こしかけたところで、ポルナレフはびくりと肩を跳ねさせた。熱くぬめったものが首筋に這わされている。鳥肌をたてながら恐る恐る目を開いて視線を下げると、承太郎が自分の首元に顔を埋めているのが目に入った。鎖骨から耳の後ろまで、ぴちゃぴちゃと音を立てて舐められる。湿ったシャンプーの香りに混じって、どちらの物ともつかない汗の匂いがした。

「じっとしてろ」

言われるまでもなく、ポルナレフはぐったりと身体の力を抜いて製氷機に凭れかかっていた。承太郎の手がポルナレフの身体をシャツ越しにまさぐっている。グラスはとうにポルナレフの手から離れていた。柔らかい床のおかげで割れてはいないようだが、カーペットの敷き詰められた床には氷が散らばっている。

「承太郎・・・もうやめろって・・・。変だ、こんなの・・・おかしいだろ、なあ!」

こちらの懇願を無視して、承太郎はポルナレフの下ろした髪を掻き上げるなり耳たぶに齧り付いた。甘噛みの刺激に思わず引き攣れた声を上げると、承太郎の舌は労わるようにそこをなぞる。息をつく間もなく、耳にぬるりと舌を挿し込まれてポルナレフは仰け反った。ぐちゅぐちゅと掻き回すような音で聴覚が犯されている。脳の奥が灼き切れそうだ。

「おい」
「ぐっ、」

ポルナレフは天井を仰いだまま、犬のように口を開けて喘いでいたが、急に乱暴に髪を掴まれて首を起こされた。抗議しようと声を上げる前に、噛み付くようなキスをされる。ポルナレフは咄嗟に承太郎の胸を押し返そうと腕を突っ張ったが、熱い舌に歯列を撫でられて力が抜けてしまった。息継ぎをしようと閉じ合わせた歯を薄く開くと、その隙間から舌をねじ込まれてしまう。

「ふう、う・・・」

熱くぬめった物が口内を這いまわり、掻き回す感覚に眩暈がした。舌を絡め取られる度、ぞくぞくした快感が背中を上ってくる。ポルナレフの頭は酸欠で霞がかかったようにぼんやりとしていた。
承太郎は一頻り楽しんだあと、されるがままになっていたポルナレフの口内からするりと舌を抜く。これで終わりかと思ったが、承太郎は挑発するように舌先同士だけを擦り合わせてきた。今度はお前から来いとでもいうように、承太郎の舌がポルナレフを誘っている。ポルナレフは見えない力に惹かれるように、おずおずと舌を差し出した。それに応えるように、承太郎の口づけが深くなる。承太郎を押し返そうとしていたポルナレフの手は、いつの間にか縋りつくように承太郎の服を握りしめていた。蕩けきった頭の中で、熱を交換する快感だけがぱちぱちと弾ける。

「なにしてるの?」

しかし突然聞こえた声に、ポルナレフの意識は急激に覚醒した。反射的に承太郎を突き飛ばし、荒い息を吐きながら口元を拭う。

「花京院・・・」

廊下に立っていたのは花京院だった。顔色はやや青褪めていたが、そこには何の感情も浮かんでいない。花京院は無言のまま二人の方へ歩み寄ると、ポルナレフに向かって部屋のカードキーを差し出した。

「君、鍵忘れて行っただろう。届けに来たんだ」

ポルナレフが震える手でそれを受け取ると、花京院は初めて承太郎の方へ目を向けた。花京院は顔を上げて黙ったまま、じっと承太郎の顔を見つめている。承太郎も無言で花京院を見返していた。
実際には数十秒ほどの間のことなのだろうが、ポルナレフにはその時間が恐ろしく長く感じられた。―――見られた。見られた。どうしよう。一体いつからそこに?身体中から血の気が引いて、寒気にも似た感覚に襲われる。膝が震えて仕方がなかった。

「あ、」

沈黙の時間は唐突に終わった。目の前の花京院が身体を翻したと思った刹那、気づけばポルナレフは腕を掴まれていた。花京院はそのままポルナレフの身体を引きずるようにして、エレベーターではなく階段の方へ向かって駆けていく。ポルナレフは震える足を無理矢理動かして、階段を駆け下りる花京院の後について走った。

花京院は中庭に繋がる外階段の手前で、唐突に立ち止まった。ポルナレフも花京院も、走り続けたせいで互いにひどく息を乱している。あれだけ走って汗も掻いているというのに、ポルナレフは少しも暑さを感じなかった。
暫くの間花京院は、ポルナレフから顔を背けるように中庭の方を向いて呼吸を整えていたが、それもすぐ落ち着いたらしい。掴んでいたポルナレフの腕を放すと、花京院はひとり中庭に続く階段へ腰掛けた。

「・・・ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ」

花京院の側に行こうとして、ポルナレフはその場に立ちすくんだ。花京院の背に月光が青白い影を落としている。いつも行儀よく伸ばされた背中が力なく項垂れたように丸められていた。そこに傷つきやすい何かを見たような気がして、ポルナレフはついにその隣へ行くことができなかった。

「邪魔しちゃったかな。悪かったよ」

場にそぐわないトーンで吐き出された声が、逆にポルナレフの心を突き刺すように責める。傷つけた相手にまだそんな努力を強いていることが、酷く情けなく感じられた。

「花京院・・・」
「いいよ、気にしてない。僕はほんとに・・・いいんだ。だからもう、何も言わないでくれ」

花京院は膝の上に手を組むと、深く息を吐いてそこへ顔を伏せた。虫の音の合間に、花京院が小さく啜り上げる音が聞こえる。

「花京院、俺、」
「・・・いいから」
「ごめん。悪かった」
「やめてくれ」

花京院は耳を塞ぐように頭を抱え込んだ。

「なあ、」
「うるさいな!何も言わないでくれって言ってるだろう!これ以上僕を・・・惨めにしないでくれ!」

普段仲間に対して殆ど声を荒げることのない花京院の激しい拒絶に、ポルナレフは思わず口を噤んだ。花京院は自分でも驚いているのか、はっとしたように顔を上げる。それからまた顔を伏せて、泣き出しそうな子供のような声でごめんと呟いた。

「自分で連れ出しておいて悪いけど・・・ちょっと混乱してるみたいだ。少し一人にしておいてほしい」
「・・・分かった」
「寝る前にはちゃんと戻るから・・・」
「うん」

花京院は細く息を吐いて黙ったまま、凍りついたように動かなくなった。ポルナレフは二、三歩後ずさるように離れてから花京院に背を向けると、あとはもう振り返ることもなく一息に階段を駆け上がって部屋へ帰りついた。

部屋に戻ったポルナレフはどこかふわふわとした意識のまま、ベッドに倒れ込んだ。この部屋を出てからの出来事が、全て夢か幻のように思える。まるで自分が自分ではないような感覚だ。世界のなにもかもに実感がなく、感じるもの全てが薄い膜の向こう側にあるような気がした。
―――時間を巻き戻せるものなら巻き戻したい。ポルナレフはフラフラと立ち上がると部屋の電気を消す。ベッドへ潜り込んで目を閉じても、眠気は一向に訪れなかった。夜眠れなくなっても知らないぞ、という花京院の言葉を思い出して、ポルナレフの胸がじくじくと痛む。ポルナレフはまんじりともせず花京院の帰りを待った。

花京院が戻ってきたのは、もうすっかり夜も更けた頃だった。何時間ベッドの中でじっとしていたのかは分からないが、部屋の扉が開く音を聞いたとき、ポルナレフは一瞬安堵よりも恐怖を覚えた。いざその瞬間を迎えると、帰って来て欲しいという思いよりも、永遠にこの時が来て欲しくなかったという不安の方が勝っていた。最後の審判を下される罪人のような気持ちで、ポルナレフは身動きひとつせず暗闇の中で花京院の気配を探った。
花京院はそっと扉を閉めると、電気をつけることなく、静かな足音を立ててもう一つのベッドの方へ向かったようだった。衣擦れの音が聞こえて、花京院もベッドに入ったのが分かる。そのあとは無音の闇が訪れた。

―――今日のベッド、ほんとに広いんだな。
ポルナレフはできるだけ音を立てないように寝返りを打った。ポルナレフにとって、花京院がいるのに、こうして一人で一つのベッドに入って眠るのは奇妙な感覚だった。花京院と同室の時は、今までずっと同じベッドに二人で寝ていたからだ。今日も一緒に眠るつもりだった。花京院だって同じだっただろう。

「おやすみ」

唐突に呟かれた言葉に、ポルナレフはハッと息を呑んだ。その声を聞いた瞬間、ポルナレフの心はこの律儀な少年を深く傷つけてしまった自分に対する激しい怒りと後悔の念に貫かれていた。もう一度耳を澄ませたが、それきりまた部屋の中には何の物音も聞こえない。
ポルナレフはもう一度寝返りを打った。一人で寝ていると、どうしても身体を動かす度、冷たいシーツに触れる。ポルナレフは温まることのないシーツを握りしめて唇を噛み、目から溢れてくるものを懸命に堪えた。
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テーマ:ジョジョの奇妙な冒険
ジャンル:アニメ・コミック

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海野ヒレ

Author:海野ヒレ
生き物大好き:海野ヒレ

pixiv: http://pixiv.me/umino-hire

twitter: https://twitter.com/umino_hire

身分:腐海の底で汚泥を啜る大学生。これでも医学生よ!

誕生日:8/4 吉田松陰先生と一緒(旧暦)

血液型:AB型

好きなゲーム:一生不動の一位はサガフロンティア2。異論は認める。

好きな漫画:ほんと色々。オリジナルBL、擬人化、アンソロも読みますモグモグおいしいおかわり!百合も逝ける。でも大まかに言うとギャグは大体好きみたいよ。

属性:自然発生型腐女子。小説メイン、イラスト少々にて活動中。拍手、コメントを貰うと喜びにくるいもだえるのだ。

特技:マイナーなジャンル・キャラ・CPばかりに熱烈な愛を送る。時々切ない。

好きなものごっちゃで詳しく:銀魂、サガフロ2、ダンガンロンパ、ギャグマンガ日和、+チック姉さん、ジョジョの奇妙な冒険(3部)、クロノクロス、ジルオール、ドリフターズ、モノノ怪、さらいや五葉、魔法少女まどか☆マギカ、モンハン、討鬼伝、アサシンクリード、フロンティアゲート、牧場物語、聖剣伝説LoM、FFXなど

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